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2012年9月 8日 (土)

泥の子と狭い家の物語【テノヒラサイズ】120908

2012年09月08日 ロクソドンタブラック

テノヒラサイズの~という作品名じゃないし、公演時間も長めの110分だし、衣装はつなぎっぽいけどちょっと違うしで、これまでとは少々変わった作風。
こんな感じの作品も創るんだな。
有名劇団がロクソでは、絶対、満席になって当日で観れないじゃんと思っていたが、なるほどHEPとかでやったらちょっと違和感がありますね。そんな作品でした。でも、やっぱり思ったとおり、全日満席みたいですがね。
とりあえず、観れてほっとしました。

(以下、少しネタバレしますが、もう予約した人しか観れないぐらいの厳しい状況らしいので、白字にはしません。)

大阪の随分と狭い家。テレビでよくある、少ない坪数をうまく使って快適空間にって感じかな。いや、うまくは使えていないか。なんせ、部屋の真ん中にテーブル、対面に二人掛けの椅子を置いたら、もうすれ違えないくらいの狭さ。
そこに住む、父、母、おばあちゃん、居候のおじさん、そして17歳の娘。
おばあちゃんはちょっとボケ気味。父は面倒を母に任せきり。娘もお手伝いは全然しない。
父の弟であるおじさんは芸人崩れ。もう、芸人はあきらめたらしく、仕事を見つけている最中。この狭い家に厄介になっている困り者。これも、父がいい人だからか。
娘は大阪弁を活かしたラッパーになるとか訳の分からないことを言って、ちょっとすかした感じで反抗期。

母は明るく、みんなのために。おばあちゃんの面倒はしっかり見る。娘に手を焼きながらも愛情を注ぐ。居候のおじさんに嫌な顔だってしない。むしろ、芸人の夢を追うことを応援しようとしている。そんな厄介な人を家に引っ張り込んでくる父にだって、いい人だから仕方ないみたいな感じに思える人。
でも、ちょっと疲れてしまったみたい。
家も狭いし、みんな好き勝手だし、孤独感を感じてしまったのだろうか。
明らかにいかがわしい女占い師と知り合いになって、その人を家に連れてくる。
その日から、この一家は崩れていく。

新興宗教のようにおかしな泥人形を家に置かされる。でも、これが家族の運気を高めると信じ込んでいる。
娘を以前のようないい子に戻すために、塩をかけてお祓いしたり、宇宙を動かして、一家をいい方向に向かわせようとしたり。
挙句の果てには、昔、突然死という形で1歳で亡くしてしまった娘のお姉さんの生まれ変わりという、訳の分からない36歳のおじさんを迎え入れる。

父はおかしいとは気付いているが、さんざん迷惑をかけてきた母に対する潜在的な罪悪感なのか、あまり強気に出れない。
おじさんは、芸人に向いているなんておだてられて、おかしな芸名、芸風で勝負しようとすっかり調子づいてしまった。
学校の先生だって、口先ばかりで明らかに異常なこの一家に距離を置こうとしている。
隣の幼馴染の男の子は、絵が大好き。その絵は人を正気にさせる力を持っているみたいで、色々と助けの手を入れようとしてくれるが、なにぶん、子供なのでどうしようもない。

そのうち、近所の怪しい猫屋敷に住むおばさんによって、この女の正体が明かされ始める。
今はもう普通の人だが、元々は新興宗教団体の両親の下で育てられたみたいだ。
近所に結界を張っているらしい。その中心がこの家。魔女なのか。
と言っても、本当に何をしたいのかは分からない。
女占い師が自ら言うとおり、母の望むままにしているのは確かであり、特に家に危害を加えているわけではない。

魔女の手によって、どんどん崩壊していく一家。
その行方は・・・

よく大黒柱の父なんて言うけど、本当の家族の礎ってお母さんだよね。いつも家族の中心にいる気がする。でも、台風の目みたいに、そこって結構、空洞みたいになってしまうのかもしれない。
周りがバタバタしているので、まさか中心が空っぽになっているなんて思いもしない。
父という男も子供も、女性やら、母性ってのに甘えるのは当たり前みたいに思ってるような気がする。
よくよく考えると、たまった話じゃないね。でも、そんなことも許されてしまうのがお母さんなのかな。
そんな空洞に、ちょっとした孤独感や寂しさが渦巻いて、魔女みたいな悪い物が入り込んでしまう。
本当はそれこそ家族の絆という結界で守られないといけないんだろうけど、絆だってバイオリズムみたいな感じで太くなったり細くなったり。隙を見て、うまい具合に入り込まれてしまう。それを追い出すのは一苦労だ。

空洞には悪い物が育ちやすいみたいで、不安や恐怖がどんどん大きくなって自分で魔女みたいな物を創ってしまうようなこともあるかもしれない。
育児ノイローゼとかなんてそんな感じなんじゃないのかな。
そんな時は、もちろん家族で何とかしないといけないんだけど、昔はご近所さんのようなコミュニケーションで解決なんかもしていたみたい。
この作品で言うと、先生=学校、猫おばさん=地域社会みたいな感じだろうか。
自分一人じゃないよ、一人で悩まないでなんてことはよく言われることだが、これを実現する家族・社会こそ本当なんだろう。

この作品も、結局は家族を含め周囲のちょっとした想いで魔女は出ていく。
普段はなかなか気づかないけど、みんな一人じゃない。みんな誰かのことを想いながら、想われながら生きている。お母さんのことだってみんな見ている。亡くなったお姉ちゃんだって、きっと隣の男の子の姿になってずっと見てきてたんだろう。
それが、大惨事になってからでないと気づかないのが難しいところだけど、それでも気づきさえすればきちんとまた、まとまる。そこには母親の絶対的な家族への愛があるから。
そう思うと、女占い師は、この家族の救世主であるようにも感じられる。もちろん、このまま崩壊する可能性も十分あったわけで、そのあたりは獅子は我が子を千尋の谷へ突き落とすみたいな感じなのだろうか。自身が家族を失った人生みたいなので、安易な救い方はせずに厳しくなるのかもしれない。
ラストの女占い師の安堵の表情は、そんなことを思わせ、きっと自らも少し救われたんじゃないかなと考えている。

話はずっとスリリングな雰囲気で展開する。
この劇団ではこれまでなかなか見られない、不安や恐怖を感じさせる展開。
女占い師、久野麻子さん(スイス銀行)の不気味な魔女っぷりが影響している。
父、母、娘、おじさん、先生がベテラン劇団員の方なのだが、作風が変わっても、誰がどの役をされているかは、観ていなくても、以下でだいたい雰囲気で分かるんではないだろうか。
頼りないけど、優しさで家族を守ろうとする父。ちょっととぼけた面白味を出しながら、いい人を演じる。
絶対的に家族を愛する、大げさに言えば聖母みたいな母。優しい微笑みは、それだけで涙が出てくるくらいの魅力だ。
天真爛漫でちょっとおかしな娘。コミカルなところも熱いところも魅せる。
おじさん。芸人と言えば、この人。すぐに洗脳されてしまう軽さもどことなくはまる。
先生。軽薄な一面を覗かせながらも、やっぱりそうなりきれない。ほんの少しだけど、勇気ある男気を見せる。

隣の男の子、上田康人さん(空晴)。どこか天使を思わせるような、透明感がある。純真無垢な雰囲気が、少年のような容姿ともはまる。
姉の生まれ変わりという36歳のおじさん、松木賢三さん。役のとおり、おじさんだけど、娘となる。本当におじさんなので、もちろん笑いが。でも、青春じみたセリフを言ったりして、ちょっと男らしくかっこよかったりする。

おばあちゃんと猫おばさんが新人の劇団員さん。家ノ上美春さん、川上愛さん。
年齢や役者さんの雰囲気とはずいぶんとかけ離れた年寄りの役。
家ノ上さんはキャスト表を見なかったら、多分認識できなかったな。すっかりおばあちゃんになっていた。可愛らしいおばあちゃんだったけど。
川上さんは奇妙な役。占い師より、こちらの方が、本当は魔女っぽい。話を進めるのに重要な役どころだが、存在は何かの意味を持たせているのだろうか。この家をずっと見守っていたような感じもあり、単なるおばさんでは無いようなのだが。

新しいテノヒラサイズだったけど、やっぱりテノヒラサイズだなってところもあるかな。
面白くて感動するところは何も変わっていない。

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