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2012年8月24日 (金)

十年希望【Nana Produce】120823

2012年08月23日 ロクソドンタブラック

久しぶりに心底、これは凄いぞという作品に出会った。
今週末はまた公演数が多く、好きな劇団や役者さんの舞台が重なっている。
前回、関西に来られた時の二本立て公演を観ることが出来ず、今回も見逃したら、なかなか観る機会もなくなるだろうなと思い、幾つかの公演を断腸の思いで切って観劇。
これが功を奏したどころじゃない。危ない、危ない。見逃していたら、かなりの後悔だ。

何が凄い、素晴らしいと感じたのかなあ。
話は面白い。そして、役者さんは確かに相当うまいのだと思う。
これだけなら、まあ普段の小劇場観劇でそれなりに味わっている。
何か、自分の中で新しいものを感じたはず。
その一つが、多分、シーンの切り換えなのではないかなと思っている。
消えるようにそのシーンが終わっていき、瞬間に次のシーンにパッと切り換わる。この時の照明・音響などを使った雰囲気が非常に上手く感じる。
うまく、書けないが、テレビドラマなんかを見ているのに近い感じがする。映像技術を駆使すればそれなりの効果を出せるテレビの感覚が、生の舞台で成されるのだ。
心地よく、集中して進行する話を味わいながら、のめりこんで観ていた。

公演は土曜日までしかないが、新しい感覚での観劇が出来るように思う。
一度、経験して欲しい。

大学のサークル仲間の卒業後の姿を、毎年開催される同窓会を通じて、描いていくお話。
テレビドラマなんかでも、似たような話はありましたね。
それぞれが色々な人生を歩んで、その中で嫉妬、裏切り、挫折なんかを経験しながら、知り合えた仲間たちの友情を語るような話。
昔のように単にワイワイ騒いで楽しめる仲間ではなくなったし、もう会えなくなった人も出たりするけど、もっと深い絆でつながった本当の仲間になってラストを迎えるような展開。
この作品も、まあそんな感じではあります。
ただ、私は、テレビドラマはかじるくらいしか観ていませんが、それとは迫力が違うだろうなと思っています。
生の演劇舞台の魅力をたっぷり味わえるストーリー、演出で2時間を楽しませてくれます。
舞台上にいる生の役者さんのリアルな姿とでもいうのでしょうか。そこから客席に伝わる力はテレビなどとは比べものになりません。

一年目の同窓会。
映画監督を目指す実直で人のよさそうな男がビデオカメラを回します。
毎年、近況を各自が語り、十年目にDVDにでもしようという試みです。
小説家を目指す女、バーテンダー見習いの男、電気工事屋で働く男、デザイナーを目指す女、とうふ屋でバイトする男、まだやりたいことが見つからず気楽な無職の男、システムエンジニアとして一流会社に入社した男。
計8人。
大学生のノリでワイワイ。よくある仲間だけで通じる掛け声なんかで盛り上がったり。
将来は、脚本を私が書いて、映画を俺が撮る。みんなが集まれる店を開くぞ。映画は資金がかかるから、みんなでスポンサーになって応援しよう。
なんて、夢に溢れる楽しい姿。

これが次の年の同窓会から徐々に崩壊の兆しが見え始めます。
デザイナーと電気工事屋の付き合いに嫉妬する小説家。
デザイナーと電気工事屋の結婚。事業の独立。そして、離婚。
父親の死により、跡を継ぎ大会社の社長になった無職の男の苦悩。
その会社に入社させてもらったとうふ屋のバイト。借金がかさみ、首が回らなくなってくる。
店の経営がうまくいかず、ねずみ講まがいの悪に手を染めるバーテンダー。刑務所に入って、出所。
そのねずみ講に騙され、映画資金のやりくりが出来なくなって自殺する映画監督。
システムエンジニアの後輩との社内結婚。子供誕生。

時系列をめちゃくちゃに書いていますが、こんなことが流れる月日の中で起こり、10年目の同窓会に参加する人はついに1人だけになってしまいます。
システムエンジニアの男だけ。隣には数年前から一緒に参加している妻。ビデオを三脚にセットして近況を語る姿はあの頃からは想像できないさみしい雰囲気です。
そんな2人の下に一冊の本が届きます。
タイトルは十年希望という小説。
自殺した映画監督が作成し、これで映画を撮ろうとしていた。不幸なことにお金が尽きて、最悪の決断をしてしまったがために夢かないませんでしたが。このきっかけになってしまったバーテンダーは、この原本を服役中にシステムエンジニアから手渡されています。出所後、自分の行為を深く反省し、返却に来ますが、小説家だけまだ読んでないからもらえないと言います。小説家は今はもう宝石デザイナーの仕事をしてフランスにいます。
きっと、バーテンダーは必死で働いて、フランスに届けたのでしょう。そして、その原本から、まだ小説家の夢を捨ててはいないので、一冊の本に仕上げたみたいです。

作品中にずっと変わらない友情なんてものはあるのかなんて議題が出されます。
あの楽しかった同窓会1年目から、1人減り、2人減りと仲間の姿が消えていく同窓会の事実だけを見ていたら、確かに疑問も出てくるでしょう。
でも、きっとこの議題の答えはYes。
それぞれ、色んな人生を歩みますから、大学時代の仲間同士みたいにはいつまでもいられません。1年目とは違った形になっていますが、結局は10年目もしっかりつながっていることが分かります。切れたりつながったりしながら。
だから、この小説が出来上がったわけですから。
そして、これからもこの仲間たちは、その絆を深めていくでしょう。そして、この仲間たちがいたからこそ、新たにつながったシステムエンジニアの妻のように、新しい仲間も加わっていくはずです。仲間の絆は増えこそすれ、減っていくものではないのでしょう。
それがタイトルの十年希望に通じているのだと感じます。

ラストは舞台の奥に並べられた椅子に各自が腰かけ、これからのもう十年を思わせるような希望溢れる姿で締められます。
椅子はその人自身の生き方が異なるかのように、全部違った形の椅子が用意されており、みんな違うけど、同じみたいなことを感じます。
仲間の夢を自分の夢のように応援しようとしたり、付き合ったりするのをひやかしながらも心から喜んだりの若い楽しい時間から、つらいことや悲しいことも経験して、成長して大人になった輝いた姿が印象的でした。
みんながいるから自分もいる。みんなが自分に何かをしてくれる。そして、自分もみんなに何かを残している。
そんな人生って独りじゃない、どこかでつながった仲間がいることを思い出させてくれるような作品でした。

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