ほたるの水辺【HPF高校演劇祭 大阪市立咲くやこの花高等学校】120731
2012年07月31日 ウィングフィールド
静かで淡々としたお話。
出会い。そこから生まれる相手への大切な気持ち。自分の中に宿り始める新しい心。
蛍をキーワードにして、そんなものをありがとうという感謝の気持ちで紡いでいったような作品。
話としては蛍という女性と、高校生三人が、昔から大切にしていた蛍が住むような水辺を開発から守ろうとする。
でも、まだ幼き高校生たちに、そんな大人の行動を止めることは出来ない。個々にも色々な悩みを抱えている。そんなことに悩み苦しみながらも、懸命に頑張るが必ずしもいい結果を得れるわけではない。
開発は進む。大切な場所はやがて無くなる。
でも、ずっと見守り続けてきた。大切に想ってきた。だから、ありがとうだ。この大切な場所で得られた出会い、そこで生まれた自分の大切な気持ちに。
よくありがちな話ではあるのだが、少々解釈は難しい。
単純に蛍の住む水辺を守るような話ではもちろん無い。
これはあくまで私の個人的な見解だが、全般を通して、出会いとその継承への感謝の気持ちが浮かび上がる。
どうも、蛍という女性が、高校生たちが通う学校の昔の制服を着ているところが、気になって仕方が無い。
過ごしてきた大切な場所。そこには時を超えて残る先人たちの想いが宿る。それはずっと今の私たちを見守り続けてくれている。それは見ようとしなかったら決して見えない。でも、目を向けさえすれば、それは色々な形で見えてくる。そんな人の想いが紡がれて蓄積した念は、蛍の光のように私たちを照らしてくれる。
光はこれからもずっと照らし続け、私たち自身もそんな光の一つとなって、この場所にやって来る人たちを照らし、見守り続けたい。私たちが感じたありがとうという気持ちは、時を超えて継承されるものであって欲しい。
演劇に例えてしまうなら、残される大切な作品の一つ一つは、出会いから生まれた蛍の光であり、この作品自体もそんな光となって欲しいという祈りが込められているように感じる。
舞台は小さな川が流れる森のある場所。
その川にはかつて、蛍をはじめ多くの生き物が住んでいた。
男は幼き頃から、この場所が大好きだった。
そこで、出会ったある女性。
いつも、川の水辺の石に座り、寂しそうにしていた。
女性と約束をする。ずっと一緒に傍にいる。そして、この場所を守る。
男は高校生になって、この場所を日々清掃して綺麗にする活動をしながら、ここを守ろうとする。
森の開発が進み、この川も壊されてしまいそうな状況みたいだ。
幼馴染の悪友、そして口うるさい女も一緒だ。
やがて、女性も一緒になり、4人でこの場所で過ごし始める。
悪友は口うるさい女にちょっと気があるみたいだ。冗談ばかり言ってケンカは出来るが、いざ告白は難しいみたい。女も気付いてはいるけど、なかなか素直にはなれない。
そんな二人に女性は巾着袋に入れた小石をプレゼントする。
みんなで冗談言い合ったり、写真を撮ったり。いずれそんな日が消える不安があるけど、楽しい日々が続く。
悪友の祖父は容態が少し悪いみたいで、あまりこの活動に参加できなくなりそう。
男の父親は、この森を開発している会社のお偉いさん。父親とは別居しているみたいで、あまりお願いしても言うことは聞いてくれそうにない。
男も悪友も女も、この場所でだけ生活しているわけではない。こことは違う場所での生活があり、そこでは様々な悩みとともに生きている。むしろ、そこでの生活が本来の人生であろう。
女性は、この場所でのみ生きている。ここが壊されれば、それでさよならとなる。
やがて、そんな日がやってくる。
約束は守れなかった。
でも、この場所でずっと自分を照らし続けてくれた。その光はこの場所を去っても消えることなく、自分を照らしてくれるだろう。ありがとう。
そして、女性も、ずっとこの場所を見守ってくれる人がいた。自分に気付いてくれる人がいた。自分の光を大切に想ってくれる人がいた。そんな気持ちからありがとうの言葉が発せられる。
ラストは、残された高校生3人があの場所で集まる。
そこには、もう女性はいない。記憶からも消えてしまっているようだ。
でも、その出会いから生まれた自分の心に触れたものはどこかに残っている。
ずっと見守ってくれてありがとう。そんな女性の気持ちは、巾着袋に入った小石にも残っている。
あらすじが書きにくいのだが、ざっくりはこんな感じ。
この森のある水辺の場所で経験した出会いと自分が感じた想いが、これから外の世界を生きる高校生たちの光となっているようなイメージかな。
まあ、学校での出会いや多くの経験したことが、これからいわゆる社会に出る自分たちの光となることへの感謝みたいなものにも捉えれるだろうか。
考え過ぎかな。
でも、そうだとするなら、女性は学校である。この作品のように多くの光を与えてあげれたのだろうか。そして、それに感謝の念を抱く生徒にありがとうの言葉を自信持って言えるだろうか。是非、そうしてあげたいものである。
蛍の化身のような女性、塩川瑞季さん。設定上、少し古いタイプの高校生でないといけない。そこまで古くある必要はないのだろうが、イメージ的にはモンペ姿で清楚な大和撫子みたいな感じが話には合う。で、実際、ちょっとそんな雰囲気を醸し出している。静かで落ち着いた安定感ばっちりの女優さんだった。
森を守ろうとする男、菅野雄真さん。これまた落ち着いた感じのある方。しゃべり口調が非常に落ち着いている。女性を見る時の子供のような優しい表情が印象的である。小さな子供のお姉ちゃんは僕が守るからみたいな感じかな。高校生はもちろん子供ではないが、やれることの幅はどうしても狭い。ただ懸命にしかできないみたいなもどかしさもよく表れている。
女子高生、栗岡里実さん。一緒にこちらも頬が緩むような素敵な笑顔が印象的だ。設定上、かなりガラは悪い。それだけに、恋心を突かれてしどろもどろになるような表情はとても可愛らしい。
悪友、平尾卓雅さん。ひょうきんでお調子者。やられキャラを全開。思いっきりがいいので見ていて気持ちいい。終始、ワーワー騒いだ感じなのだが、祖父を想う時の大人びた表情、女子高生にうまく告白できないガキんちょみたいな頼りない表情の使い分けがきちんと出来ており、心情表現に変化を付けている。
作品を通して、どう感じるかは人によってかなり異なりそうな話である。
私の感想も自分よがりの勝手なものとなっている。
でも、ありがとうで最後につながるところは共通するのではないだろうか。幻想的で純粋な光をイメージしやすい蛍は、そんな人に対する感謝など優しい気持ちしか想像させない気がする。
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