FOLL IN DOWN FEEL SO GOOD【アコヤの木】120724
2012年07月24日 インディペンデントシアター1st
上田ダイゴさん(マーベリックコア)の作・演での曽木亜古弥さんの一人芝居。
偉そうな書き方になるけど、さすがは奇才、ダイゴさんの作品だけあって、巧妙でうまく出来てますね。伏線の回収の仕方にゾクゾクきます。
と言っても、昔、火ゲキか何かの短編で拝見した時には、確かあまりいいことをブログで書かなかった覚えがある。巧妙な作りなだけでは、贅沢ですが満足しないんですね。そこに心を震わせるものが無いと。
今回はそれが曽木さんになるのかなあ。
優しく心温まる様で描かれた様々な登場人物の姿は、話としてのハッピーエンド以上の幸せを感じさせます。
お二人の絶妙なコンビで創られた作品が、見事な相乗効果を生み出しているようです。
(以下、ネタバレ注意。水曜日の公演終了まで白字にします。で、そんなネタバレうんぬんはどうでもよく、もし、最終公演までにこのブログを観たなら、劇場に行ってみませんか。かなりお薦めです。謎解きみたいな作品が好きなら、その伏線回収を楽しめますし、心温まる作品が好きなら、各エピソードで感動することが出来ます。観方次第で色々な楽しみ方が出来ますよ。)
舞台は5階建てのボロアパート。
歴史あるアパートですが、老朽化には勝てず、直に取り壊されるようです。
そんなアパートの1階。管理人の老婆の下に男が来訪するところから話が始まります。
何をしに来たのでしょう。このアパートが奇跡のアパートと呼ばれていることは知らないみたいです。
そんな呼ばれ方をされるようになった由縁を優しく語りだします。
時間は遡って、10年前。屋上にある、誰もがもう鳴らないと思っていた教会のような大きな鐘が鳴った時の話です。
5階に住む女優の卵。
レッスン、オーディション、バイトの毎日。なかなか、日の目を見ることはないようです。舞台は外国みたいですが、日本のある地域の小演劇の役者さんみたいですね。
タイタニックのあのシーンを屋上で練習。その時、急に鐘が鳴る。びっくりして、一歩踏み出してしまう。その先は・・・
まあ、いいか。どう考えても、このまま地面に落下してしまうでしょう。売れなかったけど、頑張ってきたから悔いは無し。また来世に期待しましょう。
4階。
日本からやって来たベビーシッター。この家の母親は、女手一つで3人の子供を育てている。自分も母子家庭だったから大変さがよく分かる。大事に育ててくれたけど、絵の勉強をしたいと行ってケンカして飛び出してここに来てしまった。
まあ、そんなことはどうでもいい。今、しないといけないことは3人のやんちゃ坊主たちを寝かしつけること。今日は母親は自分の誕生日パーティーで外出しているのだ。子供も元気に育って、少し心に余裕が出来たんだろうな。息抜きさせてあげなくちゃ。
とりあえず、一番下の子供はいい子なので寝室でおとなしくしてくれている。
問題は残り2人。
明日は節分。日本では鬼がやってくる。ここにも鬼がやってくると言ってびびらして眠らせよう。秋田出身を活かしてナマハゲの話もする。真ん中の子はかなりびびっている。
長男はなかなか手強い。どうも、母親が自分達を放ってパーティーに出かけているのも気に入らないよう。でも、頑張っている母親を楽させてあげないととか言って、幼きながらも男心をくすぐって寝室へと向かわせる。
これで安心と思いきや、寝室の壁一面に落書き。一番下の子の仕業だ。一番、信じてたのに。
でも、その絵は母親への愛情が溢れるものだった。画用紙には収まらないくらいの想いが壁までに絵を描かせたみたいだ。
母親が帰ってくる。もちろん、頼まれたことが出来ていないので叱られる。私は叱られても構わない。でも、この幼き子供のあなたへの愛情をしっかり組んで欲しい。
なんか、自分の母親のことを思い出しちゃった。一度、日本に帰ろう。そして、母親ともう一度しっかりと話して、自分のことを分かってもらおう。
それはそうと、子供たちはまだびびっている。節分の鬼だ。大丈夫、そんな時は豆を播けばいい。豆が無い。大丈夫、とりあえず米粒でいい。みんなで、窓から米を播きましょう。
外から鐘の音が聞こえる。
3階。
戦争から逃れてきた男と猫。それと一緒に暮らす女。
猫は男のお気に入り。そして、自分のお気に入りのソファーをいつも一人占め。生意気な奴だ。
男を巡って、互いにちょっと嫉妬し合ったりしている微妙な仲。
置き手紙が見つかる。国での戦争。そこから逃げてきたが、今の幸せな生活がそれでいいのかと不安になる。しばらく旅に出る。待っていて欲しい。
どうしてなんだ。女と猫はぶつけようのない怒りと悲しみの中に。
あの悲惨な戦争から一緒に逃げ出してきた猫。自分はまだまだここで生きてやる。そう、例えばこの窓から飛び出しても、しっかり着地して生きれる自信がある。試してみようか。
猫がいなくなって探す女。いつの間にかまた部屋にいる。お気に入りのソファーに一緒に座って、彼を待ちましょう。
外から鐘の音が聞こえる。
ここだけ、ちょっと違和感がありますね。このエピソード部分だけ一人二役なのです。猫と女。他のエピソードでは、他のキャラはこちらの想像で映し出さなくてはいけません。手法を統一するルールは別にないのでしょうが、どうもしっくりこないところがあります。
2階。
デザイナー会社を経営する姉弟。
弟は経営中心で、姉がデザイナー。弟は5階の女優さんにちょっとお熱らしい。
明日は、姉のデザインしたウェディングドレスの発表会。うまくいけば、一躍ミリオネアだ。
寝れない。ここのところ、ずっと寝れない。
テレビの通販でよく眠れるマットが売っている。これを買おう。すぐに持ってきてと言っても対応してくれない。じゃあ、3ダース買う。すぐに持って来い。弟がそんな金どうするんだと言ってくる。
私を信じてくれてないの。明日になれば、大金持ちになれる。
窓際に置いてあったウェディングドレスが飛んでしまう。
まあ、いい。もう、この会社は解散で。デザインを私任せにして、それを信じてないんだから。
弟が口を開く。姉さんのデザインする服が好きだって。
そうなのか。その言葉が聞きたかったのかも。久しぶりにゆっくり寝れる気がする。
外から鐘の音が聞こえる。
ところで、屋上から落下した女優の卵。
ウェディングドレス姿で見事に着地。
そう、もう死ぬのかと思ったら、たくさんのマットを積んだトラックが。クッションになって跳ね返る。また落ちる途中で猫に出会って、その猫はしっかり着地する気満々でその姿勢を真似した。そうしたら、とりあえず生きてる。途中で、ウェディングドレスにすっぽりとはまって。
落ちてる間に色々考えた。幸せって。4階みたいに普通に子供と一緒に家族を持って・・・。
この奇跡みたいなことを信じてみたい。今、目の前にいる人。2階のデザイナーの弟。結婚して欲しい。
もちろん、弟は元々好きだったのでOK。
結婚式みたいだ。うまい具合にライスシャワーも。
と、こんなお話が老婆から語られる。
それを聞いている来訪者の男。
あの日、奇跡が起こった。
5階の女優の卵は、夢はかなわなかったけど、幸せに暮らしている。
4階の壁一面に落書きした子供は今では画伯。アパートの壁紙も幼児期の作品として剥がされて持って行かれた。
2階のデザイナーは、あの日の事件が話題になり有名ブランドに。
3階だけは、今でもまだ暮らしている。ここだけは、奇跡が起こらなかったみたいだねえ。
男は今日はどうするんだろうか。
部屋なら空いているから、どこかに泊ればいい。
でも、3階だけは人がいるから。
そんな老婆の忠告を無視して、3階に向かう男。
各階のエピソードを優しく描きながら、全体が構成されている。
そのエピソードはそれだけでも、十分作品となるぐらいのものであり、それが繋がって浮かび上がる全体の話を見事だと感じるのは当然だろう。
10年前に奇跡が起こった。その奇跡は、そのアパートの人達を幸せに導いた。
その奇跡の終止符が、今、取り壊し直前のアパートで打たれる。
何でそんな奇跡をアパートは起こしたんだろう。自らの地で頑張る人に少しご褒美をあげようとしたのかな。
時の流れの中で、ずっと住人の幸せを想い続けていたアパートにも優しいものを感じる。取り壊されても、その人々への優しい願いは消えることはないのであろう。
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