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2012年7月18日 (水)

FLY Again!~虹の彼方へ【HPF高校演劇祭 追手門学院高等学校演劇部】120717

2012年07月17日 吹田市文化会館 メイシアター中ホール

Highschool Play Festival 2012(HPF 2012)開幕。
「芝居なう」というキャッチフレーズが今をイメージしやすく、シャレている。
23年の歴史があるらしい。始まった年は私もギリギリ高校生だったわけだ。
昨年から少し拝見しているが、ご自分方の色を作り出して、若さ溢れる思い切りのいい作品が観れる。
今年は出来るだけ多くの作品を拝見したいと思っている。
どんな作品に出会えるんだろう。そして、今の若い高校生の考えていること、感じていることがどのように自分の心に響くのだろうか。
楽しみでならない。

初日は追手門学院高等学校。
本当に高校生なのか。
普段、観に行く小演劇はおろか、ちょっとした商業演劇にも決して負けないレベルの出来栄え。役者さんも貫禄の演技だった。
周囲を見渡せば、制服姿の高校生だらけの観客席。そして時折はさまれる高校生らしく微笑ましいおふざけネタの演出が、唯一高校演劇を観てるんだなあと思いださせてくれる。

苦しみ、悲しみ。つらい気持ちから立ち止まってしまった人が、作品名どおり、飛び立つ、いや飛び立とうとするまでを描いている。
東日本大震災をベースに置いている。これはチラシにも書かれているし、始まって数分で分かる。
ここにいじめ問題も絡ませている。分かる人もいたのだろうが、私は60分ぐらいまで話が進んでようやく分かったことである。
救えたんじゃないか、何とか出来たんじゃないかなんて考えて、苦悩する気持ちが生まれるのは確かに共通したところがあるかもしれない。
恐らくは阪神大震災も経験していないだろう今の高校生にとって、東日本大震災は遠い出来事のように思える。一方、いじめはきっと身近な問題であるのだろう。
これを同一土俵で描こうとする話を作り上げれるのは、高校生ならではでないだろうか。その発想に驚く。
距離関係無しに、人のことを想って出来上がった話である。遠く離れた人のことも想ってるし、身近にいるクラスメートのこともきっと想っている。
何て優しく、希望に溢れた作品なのだろうか。こんな作品を真摯に元気一杯に演じる高校生を誇りに感じる。

舞台は金網で囲まれた何かの施設。扉は一つ。鍵はかかっておらず、いつでも外に出ることは可能なようである。
設置された冷蔵庫は、いわゆるパスボックスのようになっており、食事が定期的に用意されている。
イメージは鶏小屋である。
実際に中に入っている人は鶏に見立てられている。何らかの心の傷を負っており、飛べない鳥になってしまっているのだ。飛べるようになれば、ここからきっと羽ばたいて外の世界に行ける。いや、戻れる。元々はそこからここに来ているのだろうから。

赤・青・黄・緑のように名前はあるのだが、囚人のように記号化された形でここで生活をしている。
生活に困ることは無い。食事は定期的にここの管理人の女性が用意してくれる。何かトラブルがあっても、助手の二人組が素早く対応してくれる。
誰が考えたのか緩い体操をして適度に運動もさせられる。さぼると放送がかかって叱られてしまう。
リーダー格の男と3人の個性的なキャラが、軽くケンカしたり、くだらないギャグを言い合ったりして平和に暮らしている。

そんな施設にオレンジの男が入ってくる。靴の色がみんなと違う。よそ者みたいだ。
強がっている。何も悩みなどないような素振りを見せているが、みんなと同じく、ここから外に出ようとすると足がすくむ。
4人の平和な生活が乱され始める。心がザワザワする。私たちは何かを思い出さなくてはいけない。
さらに、子供をいないと叫んで暴れる女性も入ってくる。落ち着かすために卵を抱えさせられている。我が子と思っているようだ。

時折、鳴り響くサイレン、揺れ、避難勧告。
明らかに何かに怯える人たち。
徐々に思い出していく。
自分たちが何から逃げているのか、何に苦しんでいるのか。

思い出したことは残酷なものであった。
震災で生徒全員を守れなかった。津波の水面から見える空。飛べれば、行方不明になった生徒を探すことが出来ただろう。まだ生きていたかもしれない友達を救えたかもしれない。
津波にさらわれる娘。何も出来なかった。ただ流されるのを見ているしか出来なかった。
いじめをやめさすことは出来なかった。自分が逆にターゲットになりかねない。現実から逃げることしか出来なかった。
自分の力の限界を認めざるを得ない現実。そして、自分だけが今、生き残っている事実。
誰が悪いとかいうものでは決してないだろう。でも、それによって心傷ついた者がいる。そして、それにより現実から逃げてしまった人たちがこの施設にいる。
どうしてあげたらいいのかは、正直よく分からない。
でも、そんな悲しい出来事を逃げずに見つめ直してもらい、自らで昇華する。そして、もう一度羽ばたいてもらわないと仕方が無い。
私たちはそんな人達が、落ち着いて自分を見つめ直せる場とともに、羽ばたくのに手を携えてあげなくてはいけないのかもしれない。
傷ついた人を捜して、こういう施設を提供する。そこで安心して生活してもらう。その中で、色々なことを思い出してもらう。そして、いつの日か、ここから脱却してもう一度外の世界で歩んでもらう。
一つの再生への優しいモデルケースである。
高校生にこんな形で提言されて、どうする。この作品を観て、自分はちょっと恥ずかしいなあと思わない世の大人はどれくらいいるだろうか。

青色がリーダー格で先生、谷澤和実さん。作・演でもあるみたい。素晴らしい作品を創り上げるとともに、ずいぶんと男前さんだ。関係ないが、勉強もできるんだろうか。何から何まで優れているなら、心穏やかではおれんね。苦悩する中で、空を見上げて羽ばたこうとうする姿は美しいの一言だ。
オレンジがいじめ問題で苦悩する男、藤本嵩之さん。強がる。アウトローっぽい感じ。たった一人のいじめられっ子すら自分は守れない。若さゆえにそんな力の限界に悩む。高校生らしい優しい姿が演じられる。
緑が今村優斗さん。この方も作みたい。少し正論、嫌味ったらしいところがあるツッコミキャラ。どうしていいのか分からないイラダチを醸し出しながらの演技。
赤が岡留侑吾さん。体格を活かしたデブキャラ。食い物、食い物とうるさい。話を緩和させて、楽しく観させる。魅力的なキャラである。
黄が玉谷悠人さん。一度逃げ出そうとして、やはり勇気出ず戻ってくる。臆病者のキャラになっている。これが、この施設が完全閉鎖空間でないのに、開放も決してされていないことを思わせる。
5人の高校生らしい掛け合いはなかなか楽しく、これが何の苦悩も無くある姿ならどれほど良かっただろうかと感じる。震災をはじめ、世の中には不条理なことだらけである。だからと言って、全てに目を背けてしまえば生きてもいけない。だからこそ、こんな楽しく掛け合っている姿がたくましくも思える。

施設の管理人が夏見静さん。えらい、声の綺麗な方だった。落ち着きがあり、こういう施設の必要性を声だけで説得力を見せている。
助手の方々が、宮本惇暉さん、只野奏さん。ずいぶんとおとなしそうな姿だった。もっとおふざけしたかっただろうか。でも、この冷静沈着さがこの施設の存在を大きくしている。
何かのきっかけで施設の中にいる人にもなりえたはずである。だからこそ救いたいところもあるだろう。
人は一人で生きていない。こうして無条件に傷ついた人を想って活動をする人たちがいる。施設の中の人達が立ち直っていくことに、この人達のそんな無条件な愛は必要なものであった
はずだ。

子供を失った母、三井槙子さん。これは難しいだろう、高校生には。本能的に母性はあるにしても、子供を失う母のつらさを表現するのは相当な苦労をされたのではないか。正直、母親はあまり感じなかった。でも、尊い命を失って悲しいのだというところは、誰よりもその表情、振る舞いから感じさせるものであった。
子供が船木めぐみさん。純粋なイメージを持ついでたちが幻影のように映る。いわば、死である。この人はこの世にはもう存在していないことが分かる。作品中、唯一、死を明確に見せている。母の悲しみと相まって、その姿はつらい。

震災をベースにはしているが、伝えたいところはきっと心に傷を負う人に対する癒しへの想いである。
演じ続けて欲しい。
演劇を志す皆さんが描くその優しい想いは、作品を通じて多くの人に必ず伝わるように思う。
素晴らしい作品だった。
HPF、上々過ぎるスタートである。

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