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2012年7月 2日 (月)

ぼく(25歳)のなつやすみ【斬撃☆ニトロ】120701

2012年07月01日 ロクソドンタブラック

前作が一人の少女の成長物語だったのに対し、今回は一人の男の自分探しってところかな。
人生に立ち止まってしまっている男、25歳。先を見ても後ろを振り返っても、確固たるものを感じにくい年頃ですよね。もちろん希望もあるけど、悔いもある。苦悩と言えば大げさかもしれないけど、不安と期待が入り混じった複雑な時かもしれない。どう動けばいいか自信が持てないような。
そんな男が、過去の忘れ物をちょっと取りに行くようなお話です。
こんな大事なことでも忘れてしまうんだな。日々の生活に追われてしまうと。
ちょっと思い出せば、まだまだ自分は大丈夫。忘れていたあの頃の想いは今でもしっかり残っていた。大切なものを取り戻した俺は強いぞ。あの頃ほどではなくても、まだまだ熱く生きてやるといった感じです。
そんな喪失しかけた熱い想いを、青春時代のバカ騒ぎや微笑ましい恋を交えながら取り戻す様が描かれています。

よくあるタイムスリップもので、主人公も小学生時代に戻りますが、実際に若い人が創られている作品だからか、ノスタルジーみたいなものは全く感じません。若い人の作品だなあと切実に感じます。
初めから、過去は今の自分を前に進める駆動力でしかないのでしょう。40歳ぐらいになると、過去の忘れ物があまりにも多過ぎるし、取り戻せても懐かしさを感じるくらいで、気持ちは変わるかもしれないけど、実行動にまではなかなか。もっと哀愁漂う形になりそうです。こんな熱くはなかなかなれません。
若さあふれる人が描く物語は、どんな過去でも、それを思い返して、その時の気持ちを取り戻せば、今の自分を前に進める力となるようです。
まあ、私もこんな元気な作品を観て、その駆動力を得ていますけどね。

主人公の男は25歳ニート。
過去を思い返しては落ち込む毎日。
そんな中、小学生の同窓会の案内状が。

懐かしい面々。
厳しかった先生に、友達。そう、あの頃は少年探偵団とか名乗る3人組のリーダーで、毎日バカみたいに遊んでいた。
社長になって出世した者、親の家業を継いで農家になった者、結婚間近の平凡なサラリーマン・・・
みんな立派になって、気後れする。まともに話すらできない。もう、あの頃には戻れない。今の情けない自分がいるだけだ。
魔王が来ていないな。誰かが言う。
魔王?誰だっけ。
3人で埋めたタイムカプセルを開けよう。
タイムカプセル?何を入れたんだっけ。
思い悩む男を光が包み込む。

気付けば、何と小学生時代に。
少年探偵団のメンバーもそろっている。
秘密基地。そう、秘密基地を作って、そこで毎日遊んだんだった。

同級生。
うるさい噂好きの新聞部の女、駄菓子屋の娘。
デブで気が弱い男。こいつは駄菓子屋の娘が好きなんだったな。
ノートをいつも手にして何かを書いている怪しい奴。こいつは何か敵対心をいつも自分に向けてくる。
そして、そう魔王。いやクイーンと言うんだったな。生意気でいつもケンカをふっかけてくる女だ。
この女は、デブとノートを従えて、少年探偵団のライバルだった。

そうだ。この夏休みに対決をしたんだった。
チーム対決。飼っている虫を闘わせたりのくだらない3番勝負。全部、勝ったんだったな。俺らの熱き友情からの結束力には勝てるはずがない。ずっと、3人一緒と言い合っていたんだもの。
タイマンの対決もしたんだった。先生の開発した厳しい体操に夏休み中どちらが多く参加できるか。
この対決は・・・
そうだ、8/31。クイーンは引っ越ししたんだ。初めから負けると分かっていたのに何でそんな勝負をしたんだ。
何か言いたかった。そして、預かったものがあった。そう、それがタイムカプセルの中に入っている。

全て思い出した。大切なことを忘れていたが、全部思い出した。あの時の大切な気持ち。
男は再び、あの同窓会へと時を戻す。

とだいたいこんな感じで記憶を甦らせていきます。
実際は、対決やおかしな体操、夏休みの肝試しのイベントなど様々なシーンでエンターテイメント要素高い演出を絡ましています。
ここがバカらしくも全力投球で、ここの最大の魅力を発揮しているところです。弾ける、やりきる。

すっかり自信を無くしてしまった男の夢か幻か、あの時代にタイムスリップして過ごす中で、あの頃の自分、そして忘れてしまっていた大事な物を取り戻して、今をまた熱く生き始めようとする男を描いているようです。
その姿は、心地よく、元気にさせてくれるような熱さあふれるものとなっています。

役者さんは前作より絞り込んでおり、話はとても分かりやすくなっています。
少年探偵団は主人公の男、宮本将吾さん(劇団うんこなまず)に、星村彰さん(演劇集団kuttyZsam)、chihiroさん。
この3人組のコンビネーションが素晴らしい。本当に楽しくなってくるような、仲良し3人組を演じられています。
前作にも皆さん出演されていたと思いますが、宮本さん以外はあまりにもキャラが異なりちょっとびっくり。星村さんは相当頭の悪そうなおバカさを醸し出します。小ネタもちょこちょこはさんで面白い。chihiroさんもどちらかといえば、仕切り役として振舞いますが、時折、我慢できなくなるのか、ご自分でも積極的に笑いを取りに向かわれる。宮本さんは前作と雰囲気は似ているかな。揺れる気持ちに苦悩する姿、前へ前へと進もうと必死な様が伝わり、応援したくなる感情移入しやすいキャラ作りをされています。

ライバルのチーム、クイーンが井上摩美さん、デブ、shohey!さん(人造演劇ユカイダー)、ノート、城ノ内コゴロー(男肉duSoleil)さん。
井上さんのキャラが胸がキューっとなる意地らしい可愛らしさに溢れています。厳しい体操に参加する勝負とかして、理由付けて引っ越しまでの残りの時を男と少しでも過ごしたかったんだろうな。男の不器用な愛の伝え方もいいけど、女性のそんな姿もいいですね。本当はどっか一緒に出掛けたりしたかったんだろうにと思うと切ないですね。まあ、最後がハッピーエンドなのでこれからのそんな姿は思い描くことが出来ます。
shohey!さんは典型的なデブで優しく、気の弱いキャラ。デブってずっと書いていますが、特徴づけとしてね。実際はがたいがいいといった方がいいかもしれませんね。ちょっとかわいそうだったな。駄菓子屋の娘がトラウマになって生きてるんだろうと思うと。
城ノ内さんの役どころが実はとてもミステリアス。この方の雰囲気と妙にマッチしています。この方も主人公の男と同じくタイムトリップしています。でも、元の世界に戻る気はないみたい。この方もクイーンが好きみたいなのですが、何回繰り返しても自分が思い描く時が進む世界にはならないようです。クイーンに気持ちは主人公の男に向かっている。
全体的に若さ溢れる雰囲気の中で、唯一大人で冷めてるって感じかな。人生が思いどおりにならないことを少なくとも、今の主人公の男よりかは分かってしまっている。だからなのか、ラストも笑顔一つ浮かべていませんでした。別に悪くなれとは思っていないのでしょうが、この瞬間の喜びもいずれは消える日も来るという厳しい現実を見つめているようでした。異色のキャラを入れ込んで、単なる嘘くさいハッピーエンドの作品にしていないところがうまいように感じます。

先生が今西刑事さん(人造演劇ユカイダー)。この方、本当に濃いわあ。何だろう、このおかしなオーラは。ちょこっと登場しては消えていかれますが、確かに長い間舞台にいると、雰囲気、完全に変えてしまいそう。
新聞部の女、よしひろさん(すたんぷ)。やたら、色気のある小学生になっていましたが、あれでいいのかな。変に大人びていて、うるさい感じはこの役どころとはまっているかな。
駄菓子屋の娘、平田真希さん。この方、ずっと笑ってるのね。覚えている限りでは、告白されてふるシーンと肝試しで驚くシーン以外はずっと笑われてたんじゃないかな。で、この笑顔が非常にいい。みんなを元気にさせるような素敵な笑顔ですね。演技かな。実際もそうなら、周囲を日々元気づけているだろうな。

この日のゲストが是常祐美さん(シバイシマイ)。まあ、この方目当てで、観る日をこの日に合わせたのですがね。何か前髪作って、クソ生意気そうなテンション高い小学生を演じられていました。途中、心折れそうになっていましたが、よく頑張った。

作品名の夏休みを感じさせる、爽快感のある元気で熱い話でした。
ここの持ち味を見事に発揮したいい作品だと思います。

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コメント

ご来場ありがとうございました!
斬トロのイノウエです。
うちの主宰が、「この方は、どこからか台本を入手しているのか!?」と
驚くほど丁寧にご覧頂いていて、とっても嬉しく思います!

私自身、初めての役どころで、たくさん悩んだりしましたが、
咲希がいじらしく見えていたとのお言葉、めちゃくちゃ嬉しいです!
次回公演も楽しんでいただけるよう頑張りますので、
もしよろしければ、またおいでくださいませ!

本当に本当に、ありがとうございました!

投稿: イノウエ | 2012年7月 4日 (水) 12時32分

>イノウエさん

コメントありがとうございます。

いや、ハイテンションな皆さんの姿を観て、ケラケラ笑っていたので、大半の筋を忘れてしまいましたよ(゚ー゚;

前回の猫はミステリアスだったので、どんな感じの役者さんなのかつかめませんでしたが、今回のお姿をイメージとして残しておきます。
いじらしいというか、胸締め付けられるというか、素敵な演技だったと思います。

また、すぐにハイピッチで公演されるんですかね。
楽しみにしております。

投稿: SAISEI | 2012年7月 5日 (木) 14時59分

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