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2012年7月29日 (日)

ジェリーハウス【劇団暇だけどステキ】120728

2012年07月28日 インディペンデントシアター2nd

多分、6回目の観劇になります。毎回、基本的に面白いキャラクターが登場して楽しい作品を創りだす劇団です。
前回は、これまでと少々風変わりした作品で、謎解き要素を入れ込んだ深い話でした。でも、本来、この劇団が持つほんわかした温かみが奥底に潜んでおり、最後は人の憎しみをそんな優しさで包み込むような形になっていました。
今回も少し似たところがあります。
逃げ出したい、避けたい、封じ込めてしまいたいような悲しみやつらさを、人の想いあう気持ちが打ち消すような話です。悲しみやつらさは過去に経験している以上、消えるものではありませんが、それを自分の中で昇華して、逃げずに新しい人生を歩んでいく。そんな希望の光を感じさせるものとなっています。
前回と異なるところは、これまでの楽しい雰囲気を完全に維持した状態で話を展開させています。そこには、もちろんお得意とされる奇抜で個性的なキャラをふんだんに盛り込んでいるところもありますし、さらに踊りなど新しいエンターテイメント要素を果敢に加えたところもあるでしょう。
要は、これまで拝見した中で、ここがこの劇団の魅力だなと思っているところを、うまくまとめあげて仕上げたように感じます。
話の展開の面白さのホルマリンヘッド、単純に笑えて面白い短パン、人への想いを扱った感動させるガニット団、エンターテイメント作品としての最高傑作ビックスターブルースなど、代表的な過去作品の魅力がこの作品に詰め込まれているようでした。

冒頭はタイムボカンシリーズを思い起こさせる泥棒3人組。
見事な配役にいきなり笑えます。西原希蓉美さん、福田真也さん、松田ジョニーさん(劇団潮流)。ばっちりです。
お金を奪って車で逃走中に、頭がクラゲの不思議な少女と出会い、屋敷へと向かう。
屋敷にはその少女と、タマネギみたいな頭の何かとせわしいばあば、占いを生業とする西洋の貴婦人のようないでたちのマダムが住んでいます。マダムはおさみきさん。一人だけどうしたんだといったような姿で笑わせるのかと思いきや、今回は悲しみを内に秘める美女で終始攻められていました。
そして、いつの間にか屋敷に住むようになった王子の恰好をしたおかしな男、その男と漫才をしたりして遊んでいるチューチュー、ねずみの化身のような可愛らしい子供。
王子はイメージどおりの堀真也さん。子供は井上結喜さん。名字が同じだからもしかしたら、主宰の本当のお子さんかなあ。度胸座って笑いをとる貫禄からするとそんな感じがするのだが。

一方、町のある場所でバスを待つ人達。
屋敷での占いをパワースポット的な売りにして町を発展させようとしている町長が企画したツアーに参加する人達です。
常連となっている気位の高そうな女社長にその付き人。
ヤクザのようないでたちの水産加工会社の二代目社長に、従順な年配の付き人。
イラストを描いている存在感の無い男。
妙齢のアイドル歌手とそのアイドルを影で常に見守る親衛隊の鏡のような男。
年配の付き人が井上キホーさん。会社のため、二代目のためみたいに振る舞う姿が、もう戦国時代の信頼できる重臣のようなイメージで、ここで既に人を想う気持ちを描く作品であることが想像されます。
アイドル歌手が野中朋子さん。アイドルを完璧にやり切ります。そのお姿は痛々しい。いや、とても素敵でした。笑いを好きなだけかっさらっていかれていました。

そんな町中で、TV撮影。
売れている漫才コンビ、王子と乞食の、乞食の方がインタビューを受けています。
どうやら、王子が行方不明になっているらしく、それに対して質問されていますが、回答はどうもはっきりしません。本当にどこで何をしているのかよく分からないみたいです。

そんな人たちが色々とありながらも屋敷に集まります。
そして、この屋敷の謎、占いの真実、頭がクラゲの少女の正体などが明らかになっていきます。
そこには悲しい想いが詰まったエピソードが隠されています。

屋敷には何かに耐えきれなくなってしまった人達がいます。
大切な人を失っていたり、大切な人から逃げてきている人です。
自分から行動することに躊躇があるので、この屋敷という閉鎖空間で日々を過ごす。それはそれで楽しい生活なのでしょう。
そして、それに引き寄せられるように、不安を抱える人達が呼び寄せられます。
そこで、占いという形で見せかけの励まし、安心を得て、それに満足します。
この屋敷は、そんな逃げた気持ちを持つ人達を守ってくれるところになっているようです。
でも、いつまでもこの屋敷にいるわけにはいきません。私達が生きる世界はこの屋敷の外なのですから。
長い人生の中で、ちょっと一休みと屋敷で過ごすのはいいのでしょうが、いずれは出て行って新しい人生を歩まないといけない。
そんな勇気を得るまでの紆余曲折が描かれています。
その勇気は、自然に生まれる人を想う気持ち、そして人から想われることを知ることにより沸いてきているようでした。そこには、占いのような一時的に元気づけるような言葉では無く、嘘偽りの無いこれからを生きる人に向けた真実の言葉が掛け合っています。

登場人物の多くは悲しい過去を持っています。それは親を失っているなど努力ではどうしようもなかったことも多く、不条理な思いが大きいでしょう。
それを外に出さないように隠していますが、同時に知ってもらいたい欲望もあるようです。占いに頼り、それを当てられることで安心感を得ているようなところがうかがえます。
そんな悲しみを同じように持つ者同士で仲間を作り、共に過ごすのは気が楽になるのかもしれません。こんな閉鎖的な屋敷で誰からも邪魔されずに。
でも、それは本当の分かり合いなのでしょうか。占いのように、ただそんな悲しみがあることを当てているだけで、分かっているとは思えません。それは決して一緒という姿では無いでしょう。
本当の分かり合いは、きっと自分に無い相手の悲しみを分かってあげれること。自分の悲しみをきちんと把握しているからこそ、そんな人の違う悲しみも理解してあげれるように感じます。そして、相手が自分を想ってくれていることを理解できること。
そんなことを知った人たちには、もうこんな屋敷は必要ありません。本当に一緒に生きていける大切な仲間を手に入れれたので。
くらげの頭を持つ少女の手により、その悲しみを一緒に抱えてあげられる人たちと共に屋敷は消えていきます。
跡には理屈では無いどうしようもなく切ない悲しみが残りますが、そこには光りある希望も生み出されているように思います

目を引いた役者さん。
二代目社長の北山貴靖さん(劇団ペーさん's13)。ちょっとかっこよ過ぎやしないか。アウトロー風の振る舞いに、その中で見せる一緒に会社をしている人への感謝の気持ち。仁義の世界である。不器用ながらも、その心奥深くに潜む優しさを醸し出して、素晴らしい姿を演じられていました。その上、Twitterで話題になっていた煮干しネタで最高の笑いを取る。あれは評判どおり、水産加工会社の息子みたいな題名でそのシュールな苦悩を描く立派な一人芝居となっているネタであった。さらに、冒頭で見せる、えっ、暇ステ、踊ってるぞと圧巻させられたオープニングダンス。これ、きっと北山さんが中心に創り上げられたはず。大活躍である。
本当はタンクトップ女装とかパン一とか気色悪いバカなこといっぱいする人なのに。これだけ見たら、絶対かっこいい人だと思われる。別に構わないが、納得できない感が少し残る。

たまねぎ頭のばあば、GA-KOさん(劇団野風増)。
さすが、一人芝居トライアルで二次予選通過するだけの力の持ち主。面白キャラを見事に演じられる。動きやセリフの言い回しが面白くて仕方が無い。客の目を惹きつける力を存分に発揮されていた。

クラゲ頭の少女、木村友香さん。ニコニコした不思議少女のかわいらしい振る舞いは、これまで同様、地を活かしたお得意とされるところだろうから、目を引くというか、もう当たり前。後半の悲しみを溢れださせて狂気の姿に持っていくまでがなかなかの演技だった。単に悲しみ溢れる姿は、薄幸の美少女を演じればいいので、この方ならそれほど難しくはないはず。そこから、狂うところへの心情変化が素晴らしい。単にヒステリックになって、悲しみがどこかへいってしまい、憎しみだけの鬼のような芝居を見せられることが多い。そうならずに、時折、悲しみの目を見せているところが、これはなかなかいい女優さんじゃないかと思いました。偉そうな書き方だが、この手の演技が好きなんで、うるさく書きたくなるんですね。

出来れば、配役表が欲しかった。
まだ、記しておきたい方がいるけど、お顔、名前と役が一致しない。
まあ、また舞台でお会い出来るでしょう。
私の中では、これまでのこの劇団の魅力を全部詰め込んだ最高作。
次回、ここからどう発展した姿を見せてくれるのかが楽しみです。来年の春ですね。

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