死ぬための友達【劇団ジャブジャブサーキット】120625
2012年06月15日 ウィングフィールド
淡々と進む話の割には、真剣に見入ってしまうような作品。
ただ、私の中ではどうも幾つかのテーマがつながらず、まとまらない。ものすごく、しっくりこない感が残る。
震災後の先の問題。放射能で汚染される地域はいまだ残り、先への不安、そして、そこからまだ生まれようとしている死が感じられる。
自分の最期までのわずかな時。何を残せるのだろうか。自分を信じてくれて、自分が信じた友達に何をしてあげれるのだろうか。
この二つがつながってこない。漠然とは分かりはする。
こういう状況だからこそ、人とのつながり、人を思い、思われる関係である真の友達を追及する。
死を意識したからこそ、見えてくるもの。
死の悲しみは、死を知る人にしか本当の意味で分かってあげられないのだろうか。そうじゃないと本当の友達になれないのだろうか。同じ苦しみを持たないと仲間にはなれないだろうか。
何か、そんな死に対する距離感を描きながら、今の社会を皮肉に描写し、かつ友達という言葉を再考しているような感じがする。
でも、やはり二つのつながりは分からない。震災がバックになくてもいいような気もするし、それが無いと描かれる人のつながりが希薄になるような気もする。
どちらにせよ、面白いがあまり好きな話の内容ではない。話の展開の妙が面白いだけ。
友の大切さとかよりも、未来への不安を煽っているように感じる。
舞台は移転してきたアーティストのアトリエ。
次から次へと荷物が運ばれるシーンから始まる。
ピッ、ピッ。ガイガーカウンターだ。ここは汚染避難区域からギリギリの場所。
アトリエの主はある男。余命宣告をされて、もう先は短いらしい。
アトリエには昔から一緒にいたお局風女性アーティスト、死が近づいている自分の最期を見届けてもらうつもりなのか飄々とした主治医。そして、行方不明になっている旧友から預かっている感情をあらわにしない娘。
いずれはなぜこんな所にわざわざと、と話題になりそうなアトリエに訪問者がやってくる。
ネットの公募で新しく入ってくることになった若い男。お金が目当てだと言っているが、何か別に理由がありそうな雰囲気を漂わす。
旧友の女性新聞記者。ライター魂でここに興味を惹かれたようだが、それよりも男がなぜこんな行動をといったところに仕事抜きで心配も含んだ気持ちから来ているみたい。
衆議院議員の旧友も。汚染避難区域では、様々な作業が行われている。ここには多くの利権が絡む。人を人として扱わないシビアな考えも適用されている。そんなことに異を唱えでもしたのだろうか。所属の党から逃げてきている。
被災地を慰問活動しているお笑い女性コンビ。荷車担いでの旅芸者のような活動をしているみたいだ。あまり面白くもなく、東京でのんびりテレビ活動なんてことにはいかないのだろう。こんなリスクが高くても金になる活動を事務所から強要されているのだろうか。どうも活動に嫌気がさして、マネージャーから逃げてきたみたいだ。不思議とマネージャーは追っても来ない。
話の展開は、基本的にみんなでワイワイやっているだけ。ご自慢の自家製ワインなんかをふるまって酒盛りしたりして、男も残りの時を楽しんでいるみたい。
ただ、その中で、徐々にこの世界が今どうなっているのかが描かれる。
その描き方は非常にじわじわと締め付けてくるような感じで、先の見えない不安感が煽られる。
同時に、ここに集まる人たちの素性も明らかになっていく。そして、男が何をしたいのかも。
ラストは意表をついている。
作品名の意味合いもこれでようやく分かる仕掛けだ。最期の時に気付かされるのかもしれない本当の友達。
果たしたいことに死が付随していたとしても、優しくそれを見守る友達。信じ、信じられる関係。
死が好きなだけ転がっていて、もう身近にあるのだか遠く離れた自分とは関係ない所にあるのか分からない世界。でも、それに目を背けず、その死を理解しようとする。
そんな男の真摯な気持ちが、単なる友人を本当の友達に変えて、その友達が男が願う未来の世界を創り出すような気がする。
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コメント
意図的に核心に触れない構成となった作品でしたね。
「幾つかのテーマがつながらず、まとまらず、しっくりこない。じわじわと締め付けられる、先の見えない不安感。」
とても良い喩えで、誰しも受ける印象は同じです。
明確に提示される死ぬための友達とはを描いた本筋と、意図的に核心を現さず隠蔽した謎を残す伏線が、同時に進行するので違和感があるのは当然です。
具体的に立入禁止の被爆地の物語となってますが、私は日本の隠蔽体質を皮肉ったメタファーであると読みました。
投稿: ツカモトオサム | 2012年6月28日 (木) 03時19分
>ツカモトオサムさん
コメントありがとうございます。
何でだろう。コメントあったことのメール通知が無くて、返信遅くなってしまいました・・・
申し訳ありません。
ツカモトさんのブログを拝見しましたが、どうも今回はこの謎残しを意識的にして、そのことが作品自体のテーマにもつながっているみたいな感じですね。
隠すということがどれだけ不安を煽り、何も問題を解決させないのかを、伝えるとともに、観た者が身を持って体感するという面白いスタイルのような気がします。
投稿: SAISEI | 2012年7月 4日 (水) 04時23分