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2012年6月 4日 (月)

監視カメラが忘れたアリア【鴻上作品を上演する企画】120604

2012年06月04日 人間座スタジオ

監視カメラ。
集団社会の一部を映す。防犯、管理、支配などの文字どおり監視するという威圧的なカメラ像。見る。
人のプライバシーを映す。盗撮、犯罪、狂気に通じる反社会的なカメラ像。見られる。
自分の姿を映して外部に発信する。ライブカメラなどコミュニケーションツールとしてのカメラ像。見せる。
そんな、色々な意味合いを持つカメラ像に関する話を交えて、様々な形で自分が見られたり、人を見たりする中で、自分や相手のことを分かり合いながら生きている世の中を描いているようでした。

実際の作品としての演出も、人に見せる、見られる劇中劇自体が、今、観客に見られている、この演劇作品となるような構造を取っています。
自らの発する言葉や行動が見られているような感覚を持つ監視社会。その一方、逆の立場で人の生活を見たりすることもできる。見られるという受け身的な形だけでは無く、ネットを用いて、映像、もしくはこんなブログやTwitterなどのツールを用いて自分を見せることもできる。
世の中を舞台として見立てれば、自分達が他人に自分を見せたり、見られたりする演じ手、同時にその演じ手を見る観客のような姿として浮き上がってくる。

それほど複雑な話ではないのだが、いざ書くとなかなかうまくまとまらない。
大きく3つの話が進んで融合するような感じ。

渋谷区の監視カメラを日々チェックする警察官。
これは機密事項なので、他人はそんな業務であることを誰も知らない。
ある日、警察官は自分の妻が監視カメラに映っていることを確認する。
妻は、どこかの雑居ビルに消えていく。いったい、何をしているのか。
家に帰って、妻にそれとなく聞いてみるが、妻は外出すらしていないと笑顔で答える。
妻は嘘をついている。なぜ・・・
不安は大きくなり、現場に行ってみたりするが、何もつかめず、イライラはつのるばかり。
そればかりか、そんな行動をとっていることが上司にばれて、自宅謹慎処分になってしまう。
妻に全てを打ち明けるのだが・・・

大学の色々なサークルが集まる広場。
ここには、大学当局が設置した監視カメラがある。
監視カメラを監視する会、通称、監監会は、ここでサークル名どおりに監視カメラを見張るというおかしな活動をしている。
隣では、演劇サークル。どうもおかしな部員しかいない上に人不足でまともな作品が出来上がらないみたい。監視カメラにはあまりこだわっておらず、後に逆にこの姿を外部に発信すべくライブカメラを設置したりする。
監監会の部員は2代目の会長、その後輩の男性と女性。ちなみに、初代立ち上げの会長は警察官だったみたい。2代目の会長は留年しているので、警察官とは同期で仲もよい。まさか、今、警察官がそんな相反する仕事をしているとは知らずに色々と活動のために援助を求めたりしている。これが、上記する警察官の謹慎処分を招いている。
後輩の男性は、演劇部にも所属しているが、監監会優先であまり稽古には参加していない。その理由は、演劇部を辞めて、この監監会に入部した女性が気になっているからだ。うまくはいっていないようだが、男性は女性のプライバシーなことも全て知っている。つまり、盗撮しているようだ。
演劇サークルは、次回公演が山場なのに一向に準備が進まない。現座長は、昔、演劇サークルに所属していた警察官の妻に演出を依頼する。
自己顕示欲が半端じゃない部員が多く、なかなかうまくはいかない。そこで、いっそノンフィクションスタイルの今の監視カメラで管理されている自分達のことを描いた作品の公演を提案する。

回想シーン。
警察官の妻の中学生時代が描かれる。
この中学校にも監視カメラが設置されている。いじめを無くす、国家斉唱を監視することが理由である。
でも、そんなことでいじめは無くならない。機能しているのは、国家を愛せという強制力だけである。
いじめられっ子だった妻は、先生にも理解してもらえず、いじめっ子の過剰化する要望に応えざるをえない。
ある日、要求されているお金を用意するために、無理矢理、援交させられそうになる。その時に相手から財布を奪って逃げたことがトラウマになっている事実が語られる。
このことが、妻が渋谷の雑居ビルに向かわせる発端になっている。

と、3つの話をそのまま書いたが、もちろん実際は、シーンが入れ替わり立ち替わりしながら、各話が徐々に進められていく。
収束点は、演劇サークルが公演することになったノンフィクション作品であり、その中にこれらの話が全て盛り込まれた上に、妻の秘密もそこに明かされている。

国家権力の監視カメラから、個人レベルの隠しカメラやライブカメラなど、そのレベルは違えど、過剰に人を見たり、人に見られたりする中で、秘密や嘘が存在できない世界で生きることの否定を感じます。
どこかに闇は必要みたいな感じか。
知らぬが仏ではないですが、全てを知ってしまえば、人なんてもの相手を悩ましたり苦しめたりするものも一緒に出てきてしまうのかな。
心理学でジョハリの窓によると、自分は知らないけど、他人が知っている窓というものがあります。何とも気味が悪く不安な気持ちを誘う窓です。
監視や盗撮はまさにその窓を覗くようなものであり、だからあまりいい印象を受けないのかもしれません。
それだったら、ライブカメラのように自分も他人も否が応にも知ってしまう窓にしてしまう方がいいのかもしれません。

怖くて仕方ないシーンがあるのですが、妻は最後の最後まで何で嘘をついたのでしょうか。
警察官が全てを暴露し、確実に監視カメラで雑居ビルに入る妻を見たと言っているのに、妻は最後まで否定・反論します。
その挙動があまりにも悪びれてないので、ラストのオチはもしかしたら、本当は違って、誤解だったという形になるのかと本気で思いました。
でも、実際は親の借金とかいうレベルの嘘だったんですよね。
そんなレベルであの嘘のつき方。これは何でしょうか。女性だから。妙なリアリズムを感じて、あの時の警察官と妻の表情が焼きついています。

話として、見るをテーマに色々と考えさせられる面白い作品でした。
そして、同時にやっぱり演劇ってこういう構造の作品を創れるから面白いんだよなと思える、演劇らしい演出が盛り込まれた巧妙な作品だったように思います。

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コメント

ご来場ありがとぅございました!私はこのレパで「嘘は守りたぃもののためにつくものょ」といぅ江國香織のフレーズを思ぃ出しました。

投稿: | 2012年6月 6日 (水) 15時39分

>?さん

コメントありがとうございます。
んっ、誰だろう。
知ってる人は一人しかいないはずだから、あの可愛らしい役をされた方かな。

なるほどねえ。
いい言葉で思いやりや相手のことを考える気持ちが感じられるけど、同時に何か怖いものも感じるなあ。

投稿: SAISEI | 2012年6月 7日 (木) 10時17分

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