剥製の猿【遊気舎】120601
2012年06月01日 インディペンデントシアター2nd
結局は、失った大切な人のことを想う、切ないけれど優しくて温かい作品。
それを特殊な設定で、面白いキャラを登場させながら、コミカル要素も盛り込んで感動ストーリーを描いていく。
私の非常に好みの作品形態。
ただ、タイトルからしてどんな話なのか想像し難いし、話の展開もそんな風になかなか全容を掴ませてくれない。話、どうなってるのと不安を与えながら十分惹きつけておいてからの、あ~こういうことかあとほっと安心させる。そこから、やっと恐らくはテーマになっているのであろう上記のことが感じられてくる。
私のような何も知らない客の心情をもてあそんだ、とてもうまい演劇的な魅せ方をしている。
(以下、ネタバレ注意。私の感覚では、最初の方は話がどうなるのか全く分からないと思いますので、少しでも筋が分かると面白味が無くなると思います。公演終了まで白字にしておきますので、まだ観てない人は読まないでください。公演は日曜日まで)
105分の公演。
開場に入ってすぐに凄い舞台セットに驚く。具象舞台なので、たぶん苦手な分野ではないだろうなと思いながら当日チラシを読む。タイトルが何とも怪しいのでまずは概要をと思っても頼みの当日チラシには作品内容が一切言及されておらず、何となく不安に。
実はこの時点では初見だと思っていた。でも、昔にソソソソという作品を拝見している。当時はブログを書いていないのでぼんやり確か温かい好みの作品だったなと思い出す。ただ、これは、今、ブログを書くために調べた上でのこと。劇場では初見だと思い込み、合うか合わないか、期待と不安が入り混じった時間を過ごす。
本編スタートにうまく絡めた前説を聞きながら、作品が始まる。
すぐに音響や照明が迫力があることが感じられ、舞台のリアル感をさらに強めている。
山小屋での出来事を描いているが、劇場はもうすっかり山の中だと感じられるぐらいだ。
始まって40分ぐらいでようやく、羽曳野の伊藤という役を以前、月々の月という作品で拝見したことを思い出す。この登場人物も何かずっと分からなかったし、大きく3つの群に分けられる登場人物グループの関連性もシーンが切り替わってもなかなかつながらない。そして、75分にしてようやく全容がぼんやり浮かび上がる。
金環日食が先週起こって以来、どうも関西では、地震、雷雨と異常気象が続いているらしい。
旦那がどこかに姿をくらましてしまって、山小屋に親子二人で住んでいる叔母の安否を心配して、姪姉妹とその付き添いが山小屋にやってくる。
叔母親子は無事ではあるがどうも様子がおかしい。山小屋には同じく様子がおかしい男性と女性がいる。
話をしていると、男性と女性はともに愛する人を過去に失っており、その人と約束した金環日食を観に来たことが分かる。金環日食は既に先週終わっている。それ以来、この異常気象が続いているのにこの人たちはそれを知らない。いったいどこへ行っていたのか。
ここで、謎の月とつながりがある羽曳野の伊藤が絡んでいるようです。
この人たちは月に行っており、そこで失った人と出会っていたみたいです。
もう一度会いたいから月に行きたいという考えが当然生まれますが、姿をくらましている旦那が山を守る天狗として現れてその考えを否定します。
正確には否定ではないのですが、うまく書けません。
要は、失った人ともう一度会いたい時、そんな心が締め付けられるような苦しい時に、その人はあなたの胸の中にいてますよということかな。月に行って姿を確認しなくても、大切な思い出とともに、自分の心の中に姿を現すということでしょう。
ここでいう金環日食のように、それを実際に観なくても、大切な人との思い出は二人の心の中に浮き上がってきたはずです。。
そして、山小屋に住む親子を守るかのように天狗となって山を守る旦那の姿は、今を生きる私たちをいつまでも大切に見続けていることを伝えているような気がします。
4人を月に行かせたのは、大切な人に会わすためではなく、山小屋にそのままいたらもしかしたら危険な目にあう可能性があったのかもしれません。それを避けさすための大切な人の優しい守りの念だったように感じます。
話が混乱するので、上記しませんでしたが、山小屋には犯罪を犯してしまった先輩をかくまうために、その後輩とその後輩がちょっと気になっている女性の3人組もいています。
そして、姪姉妹の付添いの女性は、ヘルパーをしながらも母の面倒はあまり見てあげれず、亡くしてしまい、どうしようもない父親と今を生きているような人です。
こんな人たちにも、この一連の事件で、後輩や連れの女性は大切な絆を作っていくことの尊さや、ヘルパーには母もきっとどこかで見てくれている、そして父に対してももう心の中でしか会えない人になった時に後悔の無いような接し方をしてあげたいという気持ちを与えたのではないでしょうか。
数多くの役者さんが登場されますが、目を引いた人を2人挙げるならば、この方たち。
叔母の娘、万年香奈さん。姿をくらました父に会いたい気持ちを、思いっきりストレートに表現されます。上に色々と書きましたが、そんな心の中で会える、いつまでも見てくれてるよなんて言葉は、本当に大切な人を失った人にとっては綺麗事でしょう。会いたい、会いたい、会いたい。死んで会えるなら死にたいぐらいが本心だと思います。そんな率直な嘘偽りない感情を表現される綺麗な演技をされます。
後輩の長尾ジョージさん。ダメ男で空気読めないし、デリカシー無いし、汗はかきまくっているしでいいところ無しですが、連れの女性を愛する気持ちがへたくそに伝わってきます。へたくそは演技ではなく、この不器用な感情表現がいいという意味で。
温かくなるいい作品です。
大切な人を想う優しいキャラたちと、何者なのかよく分からない不思議な羽曳野の伊藤さんが妙なマッチをしており、楽しく観ながらも、深い愛情を感じられる作品になっています。
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コメント
いつもながらとても丁寧な感想ですね。
「羽曳野の伊藤」は、遊気舎の2代目座長・後藤ひろひと氏の初期作品から登場する久保田浩氏の当たり役で、後藤氏が書き下ろした遊気舎のほとんど全ての作品に登場する、正に神出鬼没の謎の男で、後藤氏の退団作品でもその正体は明かされず、久保田氏が脚本を引き継いでからも登場し続ける名キャラクターで、全国のファン投票による演劇ブックの俳優チャートで常に上位に顔を出すほどの人気者でした。
久保田氏も無類の映画好きで、私は「猿の惑星」のオマージュではと予想しています。
この作品が好きなら、映画「光の旅人 K-PAX」はオススメです。
ストーリーは違いますが、構成や設定は相通ずるものがあります。
「竹取物語」も多少は加味されたかも知れませんね。
遊気舎は分かりやすくをモットーにされていますから、回想シーン以外は時間軸に従っており、見やすい構成になっておりました。
年間350本の観劇数を誇る「中西理の大阪日記」の中西氏によると、90年代に関西BIG4と呼べる劇団が4つあり、西田シャトナーの惑星ピスタチオ、青木秀樹のクロムモリブデン、大竹野正典の犬の事ム所、後藤ひろひとの遊気舎がその4劇団です。
残念ながら関西に存続するのは後藤氏から久保田氏に座長を交代した遊気舎だけとなりました。
7月初めのウイングフィールドで上演する故・大竹野正典の出世作、くじら企画『夜を掴む』も是非ご覧下さい。
投稿: ツカモトオサム | 2012年6月 2日 (土) 13時59分
>ツカモトオサムさん
コメントありがとうございます。
私の感想は全然つたないですが、それこそいつもここに丁寧なコメントをいただいて感謝しております。
羽曳野の伊藤はそうみたいですね。
色々調べたら、まあ歴史が長い。だから、登場するなり、会場が沸いたんだなあ。
ここはとても分かりやすいです。
そして、私の好きな優しい描き方。
過去公演DVDも購入しようかと思ったのですが、もう観るのがたまる一方なので。
つい先日も、やはり気になってダブリン、取り寄せてしまいました。
BIG4の後藤ひろひとさんの代表作。まずは、これを観るべきっぽいですね。
7月の大竹野さんも観に行くつもりです。
ちなみに遊劇体も行くつもりなのですが、この週、仕事がどっと入りそうで現在調整中です。
投稿: SAISEI | 2012年6月 2日 (土) 20時21分