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2012年5月27日 (日)

熱海殺人事件 ザ・ロンゲスト・スプリング【THE EDGE】120526

2012年05月26日 EPOK

今年1月に拝見した敗者髪切りマッチのリベンジ。
この時の作品とは違うバージョン。
(前回のモンテカルロイリュージョンの感想:http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/the-edge120122-.html

話が違うのは知っていたが、ここまで違うとは思わず、少々驚いている。
モンテカルロもこちらも、男女の情念や身分差による生き方の悲哀などがテーマとして描かれているのだろうが、こちらは非常に混乱する。
4人しかいない登場人物で設定も同じなのだが、こちらは全くキャラが掴めない。
いったい何を考えているのかがずっと分からず、気がおかしい人達のままで最後まで観るしかなかった。
かなり深い。複雑で分からない。

警視庁部長刑事の下に田舎から切れ者の刑事が赴任してくる。
部長刑事の部下には何年も連れ添ってきた愛人の婦警がいる。ともに一歩踏み出す勇気が無かったのか、結婚にいたらず、婦警は明日に違う人との結婚式を控えている。
これだけ書くと、モンテカルロとほぼ同じなのだが、もう雰囲気が全然異なる。
モンテカルロでの部長刑事は、オカマでこれも強烈におかしく狂気的なキャラなのだが、こちらはもっと内面的に狂気を感じさせる人の業が露骨に出たキャラになっている。単純に書いてしまえば残酷、非道だとかいう言葉になる。
ただ、単なる狂人ではなく、このありきたりな殺人事件を自分自身、さらには田舎から来た刑事の持つ苦悩と絡めて解決できると考えているみたいである。
婦警もモンテカルロはただひたすら尽くしてきたことが前面に押し出されていたが、こちらでは少し計算高さも感じさせられ、同情の念は弱い。

田舎から来た刑事は、故郷に恋人を残している。こちらにやって来たのは警視総監の娘との縁談が上がっており、いわゆる玉の輿狙いである。育ちがいいわけではないみたいで、地位を得るために自分に尽くしてきた女性を切り捨てることへの苦悩を抱えているようである。
これは部長刑事と婦警ともオーバーラップしている。
さらに、この殺人事件はどうも田舎から東京に出てきた男が故郷の知り合いの女性と出会い、熱海の海を見に行った時に起こした殺人のようである。
この動機を明らかにしていくことで、自分達の抱えている問題をどこかに収束させようとする。

部長刑事が後藤篤哉さん。このキャラが分からない。狂っているように見えて、実はみんなが抜け出せる道筋をたてて、全てをまとめあげようとしているところも見せる。怒りを覚えるような婦警への勝手な振る舞いを正当化する男として情けない言動をしながら、真面目で素敵な姿を見せたりもする。何をしたいのかが、一向に掴めず、混乱を招く。

田舎から来た刑事が盛井雅司さん。この方はモンテカルロでは部長刑事だった。今回もその狂気的な雰囲気はそのまま引き継いでいる。つか作品では見どころになる一人語りのシーンでは、その不幸な生い立ちを語る。親や育ちへのぶつけようの無い哀しみはこの作品の大きなテーマであるだろう。死神の異名をとる刑事なので、取り調べのシーンとかでは恐ろしい狂気的な姿を見せる。何かに取り憑かれたような表情は、生きてきた中での暗闇がそのまま表現されている。

婦警が辻野加奈恵さん。上述したようにモンテカルロの婦警とは少し一線を引いているような気がする。愚かなまでに人を愛する姿の悲哀をあまり前面に押し出していない。それでも、ラストはそんなところがひょこっと顔を出し、そこが作品名でもある永すぎた春の悲しい終わりを告げているのかなと思ってみたり。
婦警よりも、今回は殺害される女性を演じたシーンの方がぐっときたかな。犯人とは同郷で東京に出てからは人気の無い売春婦として生活しています。そんな自分を捨てずに認めてくれたと思った犯人にたった1000円を渡されて抱こうとされたことを知った時の切ないやら悲しいやら怒りやらのごちゃごちゃになった感情を表情一つで思わせるのはまさに女優ならではの仕事だったのではないでしょうか。

犯人が倉増哲州さん。この方もモンテカルロに出演されていて、その時は赴任してきた刑事。ずいぶんと変わったなあと思っていましたが、途中から、以前もそんなキャラだったかと思い直す。どうも、開演前に流されたビデオが生意気な態度を思いっきり取られていたので、その印象が強くなっているのでしょう。
覚悟したような悲しみの表情は前回もされていたような気がする。殺害した女を救う気持ちもあったでしょうし、同情や田舎から東京に出てきて下に見られてきた生活の中で、少し女性を下に見て安堵を得るような邪な感情もあったかもしれません。それ以上に、故郷で自らを認めてくれる大切な女性であるという思いもしっかりあったでしょう。複雑な感情が殺意につながったという事実は、刑事とかだったら、ここまでには至らなかったかもしれず、悲しいかな現実的な身分による生き方の狭さを感じさせるところがあります。最後に見せる殺害した女性への想いやりは、あまりにも優しく、この事件がいかに悲しいものかを思わせます。

話の分かりやすさは間違いなく、モンテカルロの方ですね。
こちらは、本当に混乱します。
異色キャラが織りなすおふざけシーンが散りばめられ過ぎていて、筋がどうなっているのか訳が分からなくなるところもあります。ただ、ここが面白いところでもあるのですが。

敗者髪切りマッチなので、どなたかに一票投じなければいけません。
一応、辻野さんを応援しに行くという名目での観劇ですが、前回もそうでしたが、きちんと目を引いた方にするつもりでした。
後藤さんはある意味では一番目を引いているのですが、混乱させるキャラが今回の観劇を苦しめたので脱落。
盛井さんは狂気的なキャラが安定して魅力的なのですが、ある理由でアウト。そう、この方に客いじりされたのです。観劇4年目で初めてです。私をいじってもノーリアクションなのは雰囲気で分かっただろうに。かわいそうに、せっかくの客いじりなのにご自分を苦しめるばかりか、おとなしくしている私に気も使わないといけないしで。申し訳ないなと思ってはいますが、これは自己責任ですのでね。判断能力の欠如を理由に脱落です。
迷ったのが倉増さんと辻野さん。倉増さんは本当に故郷を出て苦労された青年の純粋な姿を描かれていました。恐らく、つか作品はこういうところを描きたいのでしょうから、この作品にぴたりとはまった演技をされたことになります。辻野さんは殺害女性のあの見事な表情でしょ。
で、結局、辻野さんに入れました。正直に書くと甲乙つけ難かったので、好きな方を選びました。男だから仕方が無い。そりゃあ綺麗な方に入れますよ。
これを書き終えた時点で、あと公演2回。
誰になるのかなあ。

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コメント

SAISEIさん、ありがとうございました!
判断能力の欠如、吹き出してしまいました。
SAISEIさんをいじり出したとき、盛井さん以外のみなが、あー。と思っていました。笑。
でもやさしさで対応していただいて、ありがとうございました。
その盛井さんが坊主になってしまいました
今まであまり共感できない女性を演じることが多かったようなので、
今回はちょっと違ったみたいでうれしいです。
もちろん、本の力が大きいのですけどね

投稿: かなえ | 2012年6月 1日 (金) 01時58分

>かなえさん

お疲れ様でした。

盛井さん・・・
噂で坊主になったと聞いておりましたが。
かわいそうにというか、ほら見ろ、あんなことするからといった感じでしょうか(o^-^o)
血走った目が印象に残っていますわ。

素敵な役どころでしたね。
凛とした印象が強いので、感情が表に出てくる演技がよりぐっときます。

また、どこかの舞台で拝見できるのを楽しみにしております。

投稿: SAISEI | 2012年6月 2日 (土) 12時03分

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