D2 狙われた歌姫と緑の石【よろずやポーキーズ】120513
2012年05月13日 一心寺シアター倶楽
いいですねえ。楽しいエンターテイメント色たっぷりのミステリーみたいな感じでしょうか。
分かりやすい、正義vs悪の形の中で、一風変わった音をテーマに謎解きをしていきます。
その過程で、相容れぬ愛や真の平等な社会とはみたいなことも描かれていて、話に深みを出しています。
とにかく、観ていて楽しめる作品になっています。
探偵事務所。
名探偵を名乗る男は、ちょっといかれたおかしな人。薬をやってひらめきに頼っているところもあり、任せて大丈夫かなと不安な一面も。
でも、さすがは名探偵と評されるだけあって、その観察眼はピカイチ。特に音に関しては鋭い洞察力を持っている。
その傍らに彼の頼れる相棒兼主治医の男、そして、天真爛漫な秘書。
そんな探偵事務所に一人の高貴な男がやってくる。
ちまたでは有名なオペラ歌手が誘拐される事件が多発している。
彼は自分が愛する酒場の無名だけど天使の歌声を持つ歌姫を警護して欲しいと依頼する。
探偵は早速、酒場に調査に行くが、その歌姫から警護は不要と拒絶される。
自分は無名だから狙われるわけが無いと言い放つ。
歌姫は貧しい身分。自分のことを思ってくれる高貴な男とは釣り合わないと思っているのだ。だから、彼に助けてもらうことはできない。でも、彼女は彼を愛している。現に彼からもらった緑の宝石を大切に身に付けている。
一方、何やら悪い研究をしている教授が伯爵とつるんでいる。
教授はどうも音を利用して、宝石を共鳴させる兵器を開発しているようだ。恐らくは一連の事件も彼の仕業である。
そして、伯爵はその力を利用して確固たる地位を手に入れようとたくらむ。教授も伯爵と親密になり、自らも高貴な身分を手に入れるつもりだ。
次なるターゲットは天使の歌声を持つ歌姫のようだ。
探偵はいつもお手伝いをしてくれるちびっ子三人組に彼女を見守るように言いつける。
そして、ついにその誘拐の魔の手が差し掛かる。
危ないところだったが、探偵が知り合いのサーカス団にも見守るように言いつけており、彼女、ちびっ子三人組は魔の手から逃れる。
しばらくはサーカス団の中で生活する。
サーカスの芸に交じって、得意の歌声を披露する歌姫の生活は一時の安息の場となる。
しかし、それも長くは続かない。
魔の手は再び差し掛かり、ついに歌姫は教授達に誘拐される。
そこで待ち受けていたことは・・・
そして、教授の真の目的、さらには探偵やサーカス団との関係が明らかになっていく。
教授は開発した兵器で伯爵を殺める。彼の目的は身分差の無い平等な世界。兵器で世界を滅ぼして、自らが神となり新しい世界を構築しようとしている。
これに少し同調してしまった歌姫は、彼の手伝いをしてしまうが、探偵たちやサーカス団、さらには高貴な男の愛の力によって、その悪行は止められる。
とこんな感じの話。
探偵やサーカス団の人達は、実は教授が創りだしたホムンクルスという設定になっている。
自分達の生みの親ではあるが、間違ったことをしている、そんな平等な世界は出来ないと彼と戦うことになる。
ここは、何でそんな設定にしているのかがいまひとつ把握できないところである。
無理にSFファンタジーにしてしまっているようなところを感じ、個人的にはあまり好きではない設定である。
現実にホムンクルスは人間とは異なり、平等という簡単な言葉で解決できるものではないという、根強い身分差社会を強調しているのだろうか。
歌姫は教授に操られて、兵器の手伝いをしたのだが、半分は自分の意志で行ったと言う。
そこには、これまで貧しい身分で抑圧された恨みの心が顔を覗かせてしまったことがうかがえる。高貴な男が好きだけど、安易にそこに飛び込めない社会。それに対するもどかしさみたいなものがあったようだ。
探偵は平等な社会などそもそもないと説く。
だから仕方が無いと言ってる訳ではない。彼は地位や名誉がある。私はそれが無い。だから不平等という考えでは無い。彼は地位や名誉がある。私は人を癒す歌声がある。互いにそれを持ち合うことはできない。だから、不平等は当たり前だと説いている。
屁理屈な要素もあるが、不平等を前向きに捉えた素晴らしい考え方だ。
ラストはこの事件をきっかけに新しい生き方をするみんなを描いた微笑ましいエピローグ的な終わり方で締める。
歌姫は強く生きる決心をしたのか、海外に飛び出して自分の場を求めようと決めたみたいだ。男はやっぱり歌姫が好きなんだろう。その後を追っている。
探偵やサーカス団は相変わらずだ。ちびっ子たちも今までどおり元気。でも、不平等であることを憎んではこれからも生きることは無いだろう。
教授は・・・
手段は誤っていたのだろうが、彼の願いも真摯なもの。少しだけ反省はしたのかもしれない。本来、彼が持つ優しさを少し見せている。
不平等な社会が変わるとするなら、やはり変えるのは人である。その人がもっとやり方を考えて、新しい社会を創ろうとすれば、きっと。そんな光が社会に差したことを思わしている。
話はダンスなども盛り込んで進行していく。
特にサーカス団を登場させているので、途中、そのショーを入れ込んでいる。
ちょっとした芸ではあるが、非常に楽しく盛り上がるものであった。私はいつもあまりバカになってのれないのだが、何か今回は楽しかった。以前、違う公演でもこんなサーカスみたいなところは楽しかった覚えがある。もしかしたら、私はサーカスが好きなのか。今まで知らなかったが、今度行ってみようと思う。
会場に小さいお子さんも幾らかいたが、きっと満足したことだろう。その証拠に、2時間20分程度の大作である。たいてい、途中で子供の泣き声が聞こえるものだが、この日は一切それが無かった。子供を集中させるだけのエンターテイメントは見事だったと言っていいだろう。
探偵の浜中龍生さんが魅力的。
味のあるちょっとおかしな人オーラを出す演技に加えて、ラストのアクションはかなり見応えがあった。体が切れる。動きが俊敏でかなり楽しいアクションである。
ちびっ子三人組、山本なぎささん(演劇畑ハッピーナッツ)、小澤美代さん(himaneko style)、杤尾涼さん(劇団ウェスト)の明るい元気良さが非常に心地いい。もう、飛んだりした時の高さが違う。見ていて幸せな気持ちになる。こんな子たちが苦しむ不平等な社会では確かにいかん。
サーカス団は特徴的なキャラの宝庫。特に児珠ゆかさん演じる人形、それを操る芦川諒さん(common days)のコンビが面白い。児珠さんの人形のコミカルな動き、それに逆に操られるかのようなとぼけた芦川さん。気持ちいい笑いを誘う掛け合いであった。
歌姫の美沙香さん。あれは困る。知らずうちに目がいってストーリーを追えなくなる。
何とも楽しい作品でした。
楽しい時間を過ごす。まさにそんな感じの公演でした。
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