かくめい【劇苑×素面】120517
2012年05月17日 近畿大学本部キャンパス10号館8階 演劇実習室
演劇らしい見事な作品でした。
私たち客が舞台を観ていること、ご自分方が本当の役者、そして作品中でも役者役として観られていることを会話の中で意識づけさせています。
その中で、女優志望の二人の間の愛と憎しみが入り乱れる複雑な感情からなる会話と、昔、劇場で起こった悲劇的な裏切りによる事故を太宰治の新約聖書のユダの裏切りを描いた「駆け込み訴え」の劇中劇として収束させています。
普通の喫茶店として組まれた舞台で、いきなり冒頭から覆面を被った者たちによる愛憎の気持ちが吐き出される劇中劇のシーンから、日常的な普通の喫茶店での会話劇へ。その会話の中で感じる複雑な愛憎の心情を、最後に劇中劇で締める。
正直、私にはやや難しくしっかり把握できていないところも多いと思います。
でも、これは面白い。演劇的な仕掛けがしっかり盛り込まれており、それを楽しめます。
戯曲賞やらそんな演劇作品としての技を評価する方々が観たら、なかなかやるなと思われるんじゃないのかな。
客席にいかにも演劇を教えている先生みたいな方々がたくさんいらっしゃったが、そんなところを期待されて来られていたのだろうか。
(以下、ネタバレ注意。本質をしっかり理解できずに書いているので、それほど問題は無いと思います。公演は土曜日まで)
舞台は喫茶店。
客席には二人の若い女性。
二人とも女優を目指しているみたいです。共同生活をしているようですが、友達というよりかは主従関係みたいなものが生まれています。
一人はかなり高飛車で自信満々。かくめいを起こすという言葉で、自分が女優として演劇界に君臨する未来を熱く語ります。
もう一人は、控え目で少々卑屈。相手を尊敬して愛している反面、かなり自分本位な行動をとられ続けており、抑圧された鬱積や能力に対する嫉妬が憎しみとなり心の奥底に潜んでいる印象を受けます。
カウンターに座る謎の女とマスターの、昔、劇場で起こった主演女優の謎の事故死に関する会話が繰り広げられます。
謎の女性は、演出家。自分の作品に出演させたい目当ての女優を確認しにこの喫茶店にやってきているみたい。
マスターはどうも、主演女優の事故死に関わっていたみたい。事故ではなく、主演に嫉妬した女優の仕組んだ罠だったのか。マスターは当時、舞台美術を担当している。
そんな二つの話が並行する中で、両親を失いマスターに子供のように育てられてきた、小演劇好きの男が喫茶店に登場することで、二つの話が絡み合っていく。
そして、その複雑な心情は、ユダの裏切りの作品として描かれる。
実はしっかり把握できていないところがあって・・・
劇中劇の中で、相手に愛憎を持つ若い女性はユダとして、その気持ちを何者かに訴えます。
訴える相手にくまのぬいぐるみが使われており、これはマスターの奥さんがずっと好きだった物。
マスターの奥さんは昔、主演女優を事故死に導いた嫉妬に狂った女優ということでいいのかな。
若い女性は、常に自分より上で尊敬している友達に、何でいつも私が下なのかという卑屈な心も合わせ持ち、愛するがゆえに殺したいほど憎いという感情を、昔、嫉妬に狂った女優と重ね合わせているのだろうか。
マスターに子供として育てられている人は何者なのか。主演女優の子供みたいな考えが分かりやすい気がするのだが、それは会話中で否定されており、どうもしっくりこない。
マスターは昔の事件のことを思い出すからか演劇を否定して生きており、成長するとともに小演劇の世界にはまる子供に対して向き合えず、何か恐れを抱いているような感があるところに何か隠されているのかな。
若い女性が高橋由奈さんと森友希さん。
高飛車でちょっと痛い感じの女性が森さん、控え目な方が高橋さん。
森さんは、本物の女優顔負けの、自信満々な演説調で役者の精神論から演劇理論までを語り尽くす。全て、正論できっと能力も秀でているのだろう。確かにこの姿はイエスを感じさせる。常に正しく絶対的な存在ではあるのだが、それに従属することへのイラ立ちはある。
言いたいことが言えず、常に従うことで場の安定を保つ姿の高橋さんは、感情移入しやすいキャラではないだろうか。その抑えられた気持ちが爆発して、憎しみが顔を出す劇中劇の中では、全く違う表情になり、喫茶店での穏やかで人のよさそうなオーラは完全に消える。
マスターと謎の女。伊藤芳樹さん、東原真依子さん。
う~ん、この方々は大学生なのだろうか。舞台のカウンター側が完全に、学生劇団で無くなっているのだが。
伊藤さんは少しコミカルでひょうきんな、みんなから慕われる喫茶店マスターが本当にぴったりな貫禄ある姿。恐らく、日常生活でもそんな感じなのだろう。登場するだけでお知り合いの客はクスクスと笑われていた。
芸能界みたいな世界でバリバリにキャリアとして働いてそうなセクシーな姿の東原さん。演出家。こんないかした女性演出家はあまり演劇界ではお見かけしない気が。
子供が小島翔太さん。
何とも純粋そうで穢れの無い姿。
裏切り、嫉妬、打算、・・・など、嫌悪的な感情が渦巻くので、この方の穢れの無さというイメージがこの作品では重要なのかもしれません。
複雑な人間感情を潜ませて、創り上げられる演劇作品。人の業みたいなものがそこには入り込んでおり、穏やかではないが、観る者にとっては純粋に楽しく、美しいものとして映る。
そんな演劇を観るということの特殊性を感じさせられました。
私の知識・能力不足のところは否めず、気づけていない、もっと細かなところでも巧みな仕掛けを施してると思います。
演劇らしい、興味深い作品でした。
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