ラブソングでも書いてみる(ヒマだから)【スイス銀行】120514
2012年05月14日 インディペンデントシアター1st
余命いくばくもない人達が織りなす物語。
そこには、去る者、残される者の各々が持つ大切な気持ちが溢れていました。
悲しい話ですが、人への想いを深く感じさせる素敵な作品でした。
何より、見事なのは、このテーマでしっかり笑わせながら、楽しく観させておいて、その結末を深く真剣に考えさせる力があるところです。
余命わずかな人達が集まる病院の屋上が舞台となる。
売れなかった元ロッカー。離婚をして、裁判によってもう子供とは会えないみたい。先のことをあまり考えずにその日を生きるロッカーと言えばロッカーだが、何かいい加減なところがある感じ。
映画オタクのチェリーボーイ。映画館の息子で、将来は映画監督になって自分の映画館で上映なんて夢見る青年時代を過ごすが、ひきこもりの上に、この状況。
ちょっときつい毒のあることばかり言うが、子供にはとても好かれる女性。入院していた子供が退院した時にはプラモデルのプレゼントとかをもらっている。それを律儀に作って、また会えた時に備えるような優しい一面もある。
そんな人たちがいつもヒマな時間を過ごす屋上に一人の女性が現れる。
元ツアーコンダクター。仕事柄、相手に合わせることを強いられた生活をしており、裏表がちょっとある人である。病院を脱走する癖があり、以前の病院からは追い出されている。
そんな4人が出会い、残り少ない人生をこの屋上で過ごす仲間となる。
そんな中にちょっとすかしたある女性がやってくる。元ロッカーの愛人らしい。
学生時代からずっと付き合っている。彼が結婚をして一度は身を引くも、離婚後にまたよりを戻している。
先を考えない彼にお金も渡して、ここの入院費も払っているみたいだ。いわゆる、だめんずうぉーかーってやつか。
彼女は彼の精子が欲しいと言う。子供がいる元奥さんに対する敵対心なのか、去りゆく彼の形見が純粋に欲しいのか。
残された者にもやっておきたいことがあるという考え。
そんなこと、彼が了承するわけもなく、ダメなら、私にラブソングを書けということになる。
そんな姿に触発されたのか、ヒマな毎日を過ごしても仕方ない、残された時間でやれることをやろうという風潮になる。
チェリーボーイは映画のシナリオを今から書いて、大好きな宇宙SFを病院を舞台に無理矢理創ることになる。
そして、チェリーボーイ卒業のためにソープへ行く。
元ロッカーはラブソングを書く。
そして、息子に会いに行く。
そんな思いを達成するために、元ツアコンは病院脱出計画を立てる。
元々、病院を脱出するのが好きだし、何より自分は人に頼られて生きているのが嬉しかったことに気付いたので、ノリノリだ。
でも、一人だけこの計画にのってこない人が。
子供に好かれる女性。彼女は入院歴も長く、情報通。元ツアコンが海外で移植を受けることにより命が助かる可能性があることを知る。それが納得いかないらしい。子供が退院した時には心から喜ぶような人。可能性があることでその人を恨んだりする人ではない。でも、同じ仲間なのにといったところなのだろう。複雑な思いだ。
脱出計画は見事に失敗に終わる。
同時に元ツアコンの事情も明らかになる。彼女は海外で移植すれば助かる可能性はある。でも、現実にはその可能性は0%だ。とてつもない金が必要。その金を両親がひたすらカンパしてもらおうと必死に頑張っているらしい。
そんな事実を知った子供に好かれる女性は、素直になれないものの、元ツアコンを認め、再び4人は仲間になる。
そして、4人全員で脱出計画再チャレンジ。
チェリーボーイは宇宙SFはあきらめ、この脱出ドキュメンタリーをビデオに残すことにする。
最初は、登場人物たちの紹介から。
元ロッカー。
やはり、ラブソングは書けていない。ノートに記していることは子供への想いばかり。
ビデオでも、自分は子供に会いに行くと宣言し、愛人への想いは何も語らない。
愛人はそれをとがめる。
でも、彼の口から出る言葉は、愛人は2番の女。自分はあなたにとって1番の男ではありえないと。
嘘はつけなかったのだろう。彼女のこれまでに感謝しているからこそ。彼女にそれを理解させ、残りの人生を過ごしてもらうことは、今の彼がするべきことだったようにも思う。
病院のロビーに彼の子供が訪ねてきたみたい。
脱走する意味も無くなった。階段を下りれば、もうすぐに会える。
そわそわする彼に愛人は、ださいから早く行けという。
彼は屋上を去る。
とこんなストーリー。途中、はしょっているところや、もっと細かく話が進行するのだがまとめて書いてしまっているところはありますが、まあ流れはこんな感じです。
重い話のようですが、実際はベテラン役者さんの味わい深い演技により、明るくところどころに笑いをはさみまくりながら展開します。
元ツアコンの嶋田典子さんの変幻自在の魅力的な演技。波長が独特で引き込まれるような演技です。
片岡百萬両さん(ミジンコターボ)のチェリーボーイは、お得意の自虐ネタを絡めた面白さ。
子供に好かれる女性の得田晃子さんは毒の効いたブラックネタを交えながらも優しい雰囲気を醸し出す。
元愛人の解釈は観られた方はどう感じたのかなあ。
男女の違いや経験でずいぶんと異なる解釈になるような気がします。
尽くしに尽くして元ロッカーの愛を得れない。やはりかわいそうな姿で、元ロッカーに対する腹立ちが生まれるのが普通でしょうか。
私も、この感が無いわけではないのですが、愛人はこの結末を初めから分かって病院にやってきてはいないでしょうか。
無条件に尽くしてきた彼女ですが、ただ、彼が好き好きといった感じで尽くしてきたようには思えませんでした。彼のもっと深い本質を認めて愛し続けたような気がするのです。
だから、死を前にした彼に、彼が本当に大事に思っている物をしっかりと認識させて、最後にどう行動すればいいのかを教えるつもりだったのではないかと思うのです。
精子が欲しいなんて真面目に考えるとは思えませんし、ラブソングは書けないことで彼が愛人よりもやはり妻・子供を一番に思っていることを分からせる最適な手段としたように感じます。最後にラブソングを唄ってもらって、これまでのことが精算されるとはとても思えません。
愛人よりも子供を選択したラストで愛人は涙を目に貯めますが、その涙は悲しみや憎しみから出たとは私には思えないのです。
まあ、もしかしたら、自分を選択するかもなんてことも少しは考えていたのかもしれませんが、それはもう最初から無理だと判断していて、だからこそ、途中、そのつらい気持ちをチェリーボーイに抱いて欲しいとばかりに溢れさせていたように考えています。
本当のところは分かりませんが、愛人役の久野麻子さんの女性としての最高の魅力を感じられる素敵な姿でした。
元ロッカーのたかせかずひこさん(ババロワーズ)は、そんな感じで、どうであろうとずいぶんと罪な男なのですが、優柔不断に葛藤している姿は男の真の姿を描いていますし、終始いい加減さを醸し出しながらも、大事なところで、その真摯な気持ちを高ぶって出されるところが非常によかったです。
元ツアコンの海外移植の件で、子供に好かれる女性がきつい態度を取るのですが、その時に男らしい姿を見せたところが非常に素敵でした。
私は、多分、愛人はこういうところにずっと惚れていたと思うのです。そして、こんないい加減だけど不器用な性格だからこそ、ほったらかしでは、どっちつかずで死ぬだけだと思ったので、あまりにもつらく悲しいことですが、人肌脱いだのはないでしょうかね。
色々と難しい感情があるのですが、実は単純に面白かったというのも感想の一つ。
そう、これコメディーと言っても別に構わないような作りなのです。
ラストシーンはどうなのかな。
4人に関連した品に各々照明のスポットが当たって、それが徐々に消えていっておしまい。
こんなことが、この屋上でありました、みたいな過去形を感じさせられました。つまり、今はもう4人は・・・
このシーンが無ければ、私の頭の中で、まだ4人を生かしておくこともできたのですが、これでもう。
仕方無いですかね。そういうテーマなのだから。
少しさびしい気持ちは残ります。
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コメント
いつもながら丁寧なご感想ありがとうございます。
ほんとに、いい現場でした。
投稿: ねを | 2012年5月15日 (火) 09時14分
>ねをさん
コメントありがとうございます。
お疲れ様でした。
お会いしませんでしたね。
洗い物とかしてましたか。
ちょっと大人の話でしたね。
熟練の魅力的な役者さんばかりで、安心して楽しめる作品でした。
今週は忙しいでしょ。
お体に気をつけて、ご活躍ください。
投稿: SAISEI | 2012年5月15日 (火) 16時52分
とても良い作品でした。
更に演劇通の見方が出来るようになられましたね。
この作品の本質はラストシーンにあります。
私も初演は見てないのですが、初演の感想リンクを「舞監@日誌」に貼りましたのでご参照下さいませ。
投稿: ツカモトオサム | 2012年5月16日 (水) 08時23分
>ツカモトオサムさん
コメントありがとうございます。
とても美しいラストでしたが、ちょっとつらかったかな。
ちょうど、余命宣告まではされてないですが、母が乳がんの宣告をされて少し神経質になっているところなので、死の表現が痛く感じます。
ツカモトさんがブログに書かれている死の残酷なまでの提示というところがかなり当てはまっている感じです。
それだけ、生を同時に真剣に捉えている作品だとも言えますね。
リンク先のブログも拝読しました。
もう10年以上前なんですね。えっ、役者さん何歳なの(゚ー゚;
筋を読んだ限りでは、初演は常に迫りくる死を匂わせて描かれていたんだなと感じました。
今回、拝見した限りでは、漠然とした死はあるものの、そんなの嘘なのではないかと思えるくらいな雰囲気が漂っていたように思います。
それだけにラストが強烈に響くのかもしれません。
初演よりもさらに男女愛の要素も深く盛り込んでいるようなところもあり、より感情移入しやすく観れる作品に仕上がっているような気がします。
投稿: SAISEI | 2012年5月16日 (水) 17時10分