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2012年4月 9日 (月)

Hello, Again【劇団Pinocchio】120409

2012年04月09日 ロクソドンタブラック

非常によく出来ている脚本。
途中、うまく創るなあと唸る。
言ってしまえば、よくありがちな戦争時代から現代へのタイムトリップもの。
そこで出会った人とちょっと恋愛なんかしたりするけど、実は自分と関わり合いがある人だった。
話でしか聞かない戦争の実態を知って、ちょっと成長。
みたいな、本当に話が読めてしまうありがちな作品とそれほど異にはしないのだが、その設定が巧みである。
そして、時代を超えても変わらない人への愛情が綺麗に描かれている。

ちょっと変わったお母さん(松嶋花子)、頼りないけど思いやりのある優しい息子(松嶋仁志)。父は昔、行方不明になったみたいで、母子家庭だ。ちょっとおかしな親子だけど、しっかりした絆で結ばれている。
息子には気になってる女性(浜野歩美)がいる。気はきつくて、意地っ張りだけど、とても優しい気持ちを持っている。
女性の友達(山咲百合)。天然の不思議少女。20歳になっても白馬の王子様なんてものを信じている。その妹(山咲りんご)はとてもしっかり者。でも、最近、両親を亡くしているので頑張らないといけないと必死に強がっているところも覗かせる。

ある日、花子が発明したタイムマシンを動かすところから事件は起きる。
特攻隊で、今、まさに戦艦に激突して死を迎えようとしていた若者(古田進)が現代の世界にやってきてしまう。
この男には、2人の仲間(川島、松嶋茂)がいたみたい。
1人は同じ日に特攻に出ている。もう1人は訳あって待機するという状況だったようだ。
男は空襲で両親を亡くしている。弟もある日、行方不明になっている。彼女がいるのだが、消息不明で生きているかどうかも分からない。特攻前日に手紙にお守りを入れて送ったようだが、返事をもらうことなく、死へと向かっている。

百合は古田進に恋をする。何か運命を感じたらしい。
時代が全く異なる世界に驚きながら、昔ながらの日本男子の姿を貫く男と不思議少女の掛け合いは非常に微笑ましい。富岡晃史さんとぺーたさん。
時代が違えば、こんな微笑ましいカップルが幸せに過ごせたのだろうに。
色々と話していると、古田進の彼女は百合の祖母であることが判明する。百合が祖母から持っていたお守りからそれが分かる。
最後に会うことはおろか、その生死さえも分からずに別れた彼女が自分の死後、幸せに暮らしたことを知った男の表情はとても優しい。
古田進は直に元の世界に戻ってしまうだろう。そして死んでしまう。でも、このことは大きな救いになるであろう。願わくば、輪廻転生があるなら、またこの世界で2人が出会えればという祈りを込めて観る。この作品名に込められた想いが感じられるシーンの一つである。

後半はこのタイムトリップが偶然ではないことが明かされていく。
タイムマシンの原理として、人が一人違う時代に行けば、その時代にいた人が一人入れ替わって現代に行ってしまう。人が持つ生命エネルギーのバランスの関係上、そういう設定になってる。
実は、既にタイムマシンは発明されており、昔、父が使用している。それで父は行方不明になっている。
父は、川島という偽名を名乗り、古田進の仲間の一人としてタイムスリップした時代に生きている。
さらにもう一人の仲間は松嶋の姓であることから分かるように、自分の父親。その父親がもし特攻で死ねば、自分は生まれてこない。そうなると、母とも出会うことが出来ない。だから、自分が身代りに特攻して父を救おうとしている。自分は死ぬが、輪廻転生でまた生まれてくるという考えだ。再び会うために死ぬ。死に願いを込めた、ここも作品名が浮き上がるところだ。
一方、入れ替わりでその時に現代にやってきたのが、行方不明になった古田進の弟。仁志である。
仁志は、自分のせいで父親が死んでしまうことに悩み、タイムマシンをもう一度作動させて、自分は元にいた時代に戻ろうと考える。そのことを歩美にも伝える。
もちろん、意地っ張りの歩美も自分の素直な感情をぶつけて止めようとする。それは母も同じ。父がこうなったのは運命であり、仁志を恨むことは何も無い。仁志はみんなの想いをくんでこの時代で生き抜く決意をする。
我が弟をあの時代に戻したくない古田進、自分とは違って出会えた縁を大切にして欲しいと願う百合、素直な仁志を愛する気持ちをあふれさせる歩美、血はつながっていないものの大切な我が息子を想う花子。そして、全員に愛される仁志。
このシーンは役者さんの最高の表情を見れる絶好の見どころ。各々が素敵な表情で愛を伝えている。違う時代に生きる人が集まっているが、そんな時代を超えた人の優しさが綺麗に描かれる。

ところで、古田進が現代にやってきた時、誰も入れ替わりにタイムスリップしていない。
古田進は特攻で死ぬ直前。生命エネルギーが少なく、入れ替わりが発生しなかったようだ。だから、古田進は仁志や父のように行った先の時代で生き続けることは出来ない。ある時間が経てば自動的に元も世界に戻ってしまう。このあたりの設定はうまく考えられている。

ここで終わるかなと思っていたが、ここからがうまい。
ここまでもうまく出来ているのだが、さらにもう一工夫された巧みな話になっている。
ちょっとした思い違いでりんごがタイムマシンを作動させてしまう。
仁志が元の世界に戻ってしまう。
でも、実際に起こったことは、父が古田進と同じように現代に戻ってきただけだった。
父も特攻で死ぬ直前に現代に連れてこられたらしい。
古田進と同じように直に元の時代に戻るが、最後に母と会い、そして入れ替わって今を生きる子の姿を見ることになる。
2人とも死への意味を感じながら、元の時代で死を迎えることができるというわけだ。
さらに、仁志を含めた全員が張本人と出会ってその気持ちを直接聞くことによって、この事件をしっかりと昇華することができる。

話はりんごがストーリーテラーのような形であの夏に起こった事件のことを語るような形で進められている。
登場人物の中では最も若く、事件とも一番、直接的な関わりを持たない人。
でも、その事件の中で知ったあの時代のこと、そして時代を超えて人を想う気持ちの大きさを感じとって一回り大きくなったかのような感じ。両親を亡くし、不安が大きい中で精一杯の強さを奮い立たせて生きている子。そんな子が、少しでも前を向いて元気に生きていく気持ちになったようなことを思わせて話を終えている。
これはちょうど、この作品を観た客自身の姿にも通じているように思う。

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コメント

いつも観劇ブログを読ませて頂いていましたが、まさか劇評を書いて頂ける日が来るなんて思ってもいませんでした。
作品の理解力が凄いですね!思いが伝わっていたようで安心しました。
また機会あれば宜しくお願いします。
ご来場ありがとうございました。

投稿: 劇団Pinocchio伊与田 | 2012年4月 9日 (月) 21時57分

>劇団Pinocchio伊与田さん

コメントありがとうございます。

急遽、観に行ってみようと思って足を運んだのですが、大正解でした。
ただ、ロクソだし、まあ1時間半だろうと勝手にふんで、この後の飲み会に大遅刻することになったのは大失敗でしたが(^-^;

話の内容は面白いし、役者さんも個性的で非常に魅力的。全てにちょっとコミカルな要素が入り込んでいるところも楽しく観れるところ。
とても楽しい観劇でした。

また、次回も注目しております。
益々、ご活躍ください。

ありがとうございました。

投稿: SAISEI | 2012年4月10日 (火) 06時41分

遅ればせながら、先日はご来場ありがとうございました。
受付におりました、ワタナベです。
よもやお越しになるとは思いもよらず、受付でお会いしたときは内心大変驚いておりました。

とても懇意にさせていただいている劇団さんで、大好きな人たちが作った素敵な作品。
2時間超という長い時間ではありましたが、観ていただけて、たくさんの思いを受け止めていただけて、こうしてご感想もいただけて、とてもうれしいです。
さまざまなめぐり合わせに感謝。

ぜひ今後も応援よろしくお願いします。

なお、パンフレットに仮チラシも挟み込みしておりますが、今回のメンバーの何人かと6月末に同じくロクソドンタで公演いたします。
お時間等々よろしければ、お越しいただけると幸いです。

投稿: ワタナベカナ | 2012年4月11日 (水) 08時52分

>ワタナベカナさん

コメントありがとうございます。

どこでお会いするか分からんもんですねえ(゚ー゚)
初観劇でしたが、とてもいい作品だったと思います。
安易に扱えない難しいテーマをベースに、人が思い合う素晴らしさがよく表現されていたように思います。

6月公演のチラシはチェックしてますよ。
Snukaさんの時は、意識して観ておりませんでしたので、今回は注目して観ます。
お仕事に制作、そして役者さんとお忙しそうですが、益々ご活躍ください。
楽しみにしております。

投稿: SAISEI | 2012年4月12日 (木) 11時44分

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