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2012年4月17日 (火)

<DVD>0号【劇団コーヒー牛乳】

2007年の作品。
戦争という時代の中で、キネマに青春を懸けた人の思い出話がメインとなっている。
そんな思い出話を、ある青年が聞くという設定で話は進む。
分かりやす過ぎる。難しければ、これはまた文句をつけるのだが。
非常に素直に展開していく話で、きちんと戦争を考えさせ、それに巻き込まれた人の心情を描いています。

無理に笑いを組み込むでもなく、ドタバタし過ぎるでもなく、回想シーンを盛り込みながら淡々と話は進みます。その中で殺陣やダンスなどのエンターテイメント要素を盛り込んで、作品を盛り上げている。
反戦を強く掲げているわけでもなく、戦争の犠牲を露骨に表現もしていません。
あの頃、先がどうなるかなんて全然分からない若者たちが、撮影所でみんなでワイワイと楽しくやっていた。でも、戦争によってそんな日は終わってしまった。
そんな姿が淡々と語られる中で、当時の人達への想いを馳せ、今の自分を見つめ直してみる。
終わりを告げた撮影所には今なお、あの頃の若者たちの希望あふれる想いが残っている。それが、戦争によって取り残されたままでいる。
何をすればいいかなんて、分かったものではないけど、そんなことを知った青年はきっとさっきまでとは違った景色を見ている。取り壊しが始まる撮影所を後にする青年の一歩は力強い。
それは、この作品を観て劇場を後にした私たちの姿ともオーバーラップする。

(以下、ネタバレ注意)

明日には取り壊される撮影所の見回りをしている若い守衛。
これで明日からは無職。やりたいことも特に無いし、まあ適当に生きていくしかないなんて思っている青年。
さっさと見回りを終えてゆっくりするつもりだ。
そこで出会った老人と老婆。
2人はこの撮影所で待ち合わせをしている恋人同士だという。
ややこしいことになった。追い出そうとするが、なかなかしつこい。
そのうち、2人の思い出話が始まる。

男は売れない役者。兄貴と慕うスターにくっつきながら、いつの日か自分もキネマのトップ俳優へと夢見る青年。
兄貴は名役者。キネマだけに命を懸けてきた。そして、その想いどおりに撮影中に無理がたたって死んでしまう。
取り残された青年だが、もちろん夢を捨てるつもりはない。
安い食堂で田舎から出てきたさえない女性ともちょっといい感じになっており、売れないながらも楽しくやっている。

そんな中、何とその女性が監督の目にとまり、大抜擢される。
一躍スターの座を掴む女性。
自分も負けてられない。
2人は励まし合いながら、このキネマの世界で純愛を貫く。
青年にもチャンスがやってくる。かつて、兄貴がデビューした作品と同じ役だ。
これからが勝負。

でも、時代は戦争へと向かう。
キネマの夢は戦争の大義につぶされ始める。
人を笑わす娯楽映画など必要が無い。国民の意識を高揚させる作品しか許されない。
そして、ついに青年の下に赤紙が・・・

青年は女性と約束する。
いつか、またこの撮影所で会おうと。

戦争は終わり、時は流れる。
女性はその後もキネマの世界で大活躍したようだ。
その名前は守衛の若者ですら知っている。
青年は・・・

他にも登場人物はいて、それぞれにエピソードがあるのだが、一応メインのストーリーはこんな感じ。
撮影所が取り壊されるその日に、ようやく2人の長年の約束が果たされた。
2人の約束には、当時キネマで働いていた人達の想いも含まれている。
キネマだけに命を懸けて死んでいった兄貴をはじめ、ただキネマに夢を追い求めて日々を懸命に生きていた人達の。
死ぬと分かってても、戦地へ向かって行った。その夢をかなえるための努力すらさせてもらえずに。
人々に夢を与える映画が戦争の道具になっていった。軍の求める作品しか創れないだけでなく、ついにはその撮影所自体も武器へと変わっていく。
そんな中で、その想いをひたすら守ってきた証が、若い守衛が、今、立つ、この撮影所の地にある。
理不尽、不条理、時代の見えざる手によって流れる時間。それに対して、最後まで自分の想いをブレずに貫いた人達の想いが伝わった時に、今の自分に勇気が湧いてくる。

老人と老婆は、岡田一博さん(嶋アイランド)、ザンヨウコさん(危婦人)。
年寄りボケをかまして笑いを入れながら、当時の思い出を心温かく語る。説教じみてもいなく、若い守衛にただその想いを語っている。その表情はとても優しい。

石黒圭一郎さん。上記しなかったが、キネマ担当の記者という役。その軽薄ぶりは、あまりにも真に迫っていて目を覆いたくなるくらいの演技。後のゲキバカでも軽薄な男役で拝見したことがあるが、この頃からの持ち技だったみたいだ。

映画の撮影シーンで殺陣や華やかなダンスを盛り込んで見せ場はたっぷり。
その中で、描かれる戦争という悲しい過去を優しく語る話は心を揺さぶり、深く考えさせられるものであった。

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