« <DVD>SOS【はちきれることのないブラウスの会】 | トップページ | スイス金鉱 #2【スイス銀行presents】120322 »

2012年3月22日 (木)

消失【劇団U-TAGE】120322

2012年03月22日 フジハラビル

ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品。
昨年、フローズン・ビーチを拝見している。
コミカル要素を残しながら、シリアスなサスペンス。
その話は、笑ったり、ぞくっとさせられたりしながらも、どんどんのめりこんでしまう。

今回は少しコミカル要素は抑え気味かな。
その代わり、何か漠然とした世界観の中で話が嫌な感じで展開する。
気持ち悪い後味が残る作品だった。
最初から、気味の悪い伏線が散りばめられ、謎に包まれている。
徐々にそれが明らかになるが、それもじわじわといやらしい。
行き着く先が絶対に悲しい結末に向かうだろうという不安感の中で話を見守る。
その悪い勘はほとんど的中し、猟奇的な怖さが残る。
ただ、その中に戦争をはじめ、あさはかな人類の行動に巻き込まれながらも、そこに人の愛があったことを感じる。あったのに、どうしてこんなことに・・・、一体誰が悪いのかといった感じだろうか。
作品名の失うということの無常を思わせられる。

戦争の傷痕が残る、地球のある街が舞台。
人類は数十年前に移住のために、第二の月と呼ばれる衛星を打ち上げる。
しかし、そこに渡った人たちは、地球からの物資輸送シャトルが途絶え、見捨てられたまま死んでいく。
なぜシャトルが飛ばせないのかは明確に語られていないが、恐らくは地球でいまだ起こる戦争が原因なのだろう。

地球では両親が早くに離婚して、見捨てられた兄弟が二人で力を合わせて生きている。
彼らはもう30歳近い。ずっと、二人きりで頑張ってきたようだ。
この段階で、もう何か謎が散りばめられている。
兄が弟に関して何かを隠していることを匂わせている。
弟はある女性のことが気になっている。
クリスマスパーティーを開催して、自慢の料理を振舞うが、女性のアレルギーが原因で倒れてしまう。
命に別状は無かったものの、彼女をかなり怒らせる。

翌日。
部屋には弟を検診に来た兄の友人である医師がやって来る。
明らかな闇医師であり、弟の謎はさらに深まる。
そんな中で、部屋の下宿を希望する女、退院してきた弟が気になっている女性、ガスの修理業者が次々にやってくる。

闇医師には子供がいるようだが、その子には弟と共通する隠し事があるみたい。
弟の想いが分かり始めた女性は、徐々に弟に惹かれていく。
下宿希望の女性は、夫を第二の月で失っているが、政府は死んだと認めず、姓はそのままみたいだ。
ガス修理人は何かの任務を背負っている。この家の中をくまなく調査しなくてはいけないようだ。
女性は昔、下宿希望の女性と出会っている。
・・・

このような事実がじわじわと明らかになり、この部屋にいる人が何かを抱えていて、関係もあることが分かり始める。
彼らの運命は・・・

死という現実、失ったということに目を背けて生きてきた人が、その事実からもう目を背けることが出来なくなる。
それに巻き込まれるように、周囲の人も、愛する人を失うことになる。
今、生きている自分をもっと大切にしていれば、どこかでその悲しい死と向き合うことが出来ていれば、人類がその誤った行動を反省し、未来につながる行動をしていれば・・・
幾つもの分岐点があったはずだが、その選択肢はうまく機能しなかった。
それくらい、人にとって失うということは、心を大きく乱すものなのかもしれない。

弟が仁保裕香さん。無邪気に元気なふるまい。後の事実を知ると、その無邪気さがあまりにも悲しい。彼にとって生きるということはどういうことだったのか。
兄が中尾仁さん(劇団g/ende)。かなりのオーバーアクションで、場を盛り上げる。苦悩の中で失った弟を再生して、愛し生き続けていた。弟をもっと愛したかっただろうし、弟から愛されたかっただろうが、それに終わりを告げることが死であるということをもっと早くに気付くことが出来ていれば。
闇医師、出原正誉さん。デリカシーの無いボケキャラで、沈みがちの作品中ではかなり救われる存在。愛する息子を失っている。この人も死と向き合えなかったのだろう。そこに秘めている悲しみが徐々に溢れてきて、だんだんと笑いではなく悲しみを誘う。
弟が気になる女性、田畑肖実さん。最初の怒ったきつい表情から、弟を愛し始める恥じらいの表情、そして、それを失う悲しみの表情。一番、心情描写が豊かな役どころであり、それを繊細に表現されていた。
下宿希望の人、九十九十一さん。この方も、途中からガス修理人と出会い、そこに愛されることを求める。死んだのは確かだが、政府から認められず、いまだその死と決別出来ていない彼女に訪れる喜びから、それを失って呆然とする演技が印象的。
ガス修理人、徳丸翔也さん。政府の人。第二の月計画にも参画しており、抱える苦悩を打ち消しながら仕事に従事していたことがラストで分かる。時代や運命に振り回され、多くのものを失って生きなくてはいけなかった姿がきつい。

何やらモヤモヤする話だ。
死と向き合って生きていかなくてはいけない、国は相変わらずそんなこと気にも止めずに悪い方向へ向かっている。
震災で浮き上がってきた人の生死や国への不信。それにも通じるような気がするところも、何か嫌な気持ちになるところなのかもしれない。

|

« <DVD>SOS【はちきれることのないブラウスの会】 | トップページ | スイス金鉱 #2【スイス銀行presents】120322 »

演劇」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 消失【劇団U-TAGE】120322:

« <DVD>SOS【はちきれることのないブラウスの会】 | トップページ | スイス金鉱 #2【スイス銀行presents】120322 »