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2012年3月28日 (水)

くろねこちゃんとベージュねこちゃん【DULL-COLORED POP】120327

2012年03月27日 アトリエ劇研

ダルカラとか言われて、東京では有名な劇団みたいですね。
せっかく全国ツアーしているみたいだし、ちょっと時間が空いたので観に行ってみようといった程度だったのですが、強烈な印象を受けました。
翌日には大阪公演があり、微力ながら宣伝をしようとTwitterで感想を記そうと思いましたが、そんな気になれないくらいうんざりした気持ちになりました。
作品が悪いとか面白くないとかではありません。どっちか聞かれれば、間違いなく面白い作品だと答えます。
でも、脱力するくらい、あまりにも生々しく、後味が悪過ぎる作品にどう書けばいいのか分からなかったです。

家族を描いた作品ですが、表面をなぞってその絆を思わせて感動みたいな浅いものではなく、生々しいリアリティーの中でそれを描いています。
綺麗事ではない、人の家族の嫌なところをまじまじと見せつけられ、途中、心折れそうになって目を背けたくなるシーンも。
共有しやすい普遍的な部分も多く、いちいち共感・反発しながらの疲れる観劇。あまりにも自分の過去とオーバーラップして、舞台に飛び出して登場人物に一言物申してやろうと言う気になってしまうくらいの引き込み方です。

作品名のとおり、かわいらしいねこちゃんが二匹登場しますが、このちょっとしたファンタジー要素に救われる。
これが無ければ、あまりにも本質を突きすぎる話に耐えきれなかったかもしれません。
微妙なバランスを巧妙に保ちながら展開する面白いスタイルの作品にすっかり魅せられました。

(以下、ネタバレ注意。公演はこれから、大阪、広島、東京凱旋と4/8まで続きます。とりあえず、本日(3/28)、大阪公演がありますので、白字にしておきますが、それ以後は忘れるのですぐに黒字に戻します。)

ある家族のお話。
夫婦、長男、妹の4人家族。お手伝いさんが一人。
そして、ねこちゃんが二匹。たぶん、これは母親だけに見えている存在。
父親は不慮の事故で亡くなったばかり。
亡くなった後の事後処理で、息子は嫁を連れて実家に戻ってきている。
仕事もあるので、もう戻ろうとしているところに、全てを押し付けられている妹の怒りが爆発する。
さらに、遺言状が見つかり、開封するために戸籍謄本が必要。
しばらくは長男夫婦も足止めを食らうことになる。
なぜ、事故だったのに遺言状があるのか・・・
もしかしたら、父は死を覚悟していた。自殺・・・

ここからは回想シーンを交えながら話を展開する。
専業主婦として大半の人生を過ごしてきた母親が家族とどう接してきたかを描くものとなる。
息子が劇作家を夢見て、大学を辞めて家を出ると揉めた時の話。
妹が大学受験勉強をしていた頃の話。
夫が長年やってきた会計事務所を辞めて、老後の生活を満喫しようと決断した時の話。
もう、ここが思い出すだけでも、心がザワザワする。
あなたに出来るわけない、そんなことしなくて大丈夫、あなたのことを心配しているから言ってる、あなたのことを誰よりも大事に思っている・・・
冒険なんかしないで、今の軌道に乗っかって生きていけばいいという考え。頑張っていることを認めていると言いながらも、本当の信頼はないんじゃないかと思わす行為や発言。違った人生があったかもしれないと悩む者に対して根拠のないそれで良かったのだという断定発言に違う人生への全否定。
全て、考えが浅い。愛やら家族やらを大義名分に自分が正しいと決めつけていることを言っているだけ。
うちの家族を題材にしたんじゃないのかと思うくらいに、全く同じ行動、言葉を発する母親が舞台にいる。
実は、今のうちの状態がそっくり設定に当てはまっているところもあるかもしれない。
過去を思い出し、本当に途中で目を背けたくなる。

母親は専業主婦としてやってきたことだけが、自分を守る術。
色々と大変なことがありながらも、家族のために尽くしてきた。それは確かに愛以外の何物でもない。でも、同時に家族への依存でもある。だから、依存するものが消えれば、おかしくなる。
父が死ぬ、息子が旅立つ、娘が自分とは違う人生を進もうとする。そんなこと全てが不安の対象になって生きている。
でも、そんな人生が間違っていなかったことを納得させるために、さらに見えない何かに依存しようとする。

最後に遺言状は開封される。
長男が読み上げる。
そこには妻への感謝の気持ちが延々と綴られている。
さらに、長男から、母親の卵焼きが食べたいなんて言われて、母は安堵と喜びが共存する状況になる。
家族っていいな、めでたし、めでたし。
と、幸せな終わり・・・ではない。

これ、全部、嘘。
長男が勧進帳のごとく、白紙をうまく読み上げただけ。さすがは、劇作家の卵だけある。
本当のところは明らかにされていないが、恐らくは読めば、母親は完全に人格崩壊へと向かうようなものだったのでは。
これに対して、妹は批判。嫁はどうでもいい感じ。
長男はこうするしかなかったと考えている。
その中で母親が笑顔を見せている。
これが本当のラスト。

このエンドをどう捉えるかはすごく難しいなあ。
悪いエンドでは無いと思うが、少なくとも優しい嘘なんて言葉は私には出てこない。偽りの嘘で固めた家族。相手を想うための嘘ではない。全て自分のことを考えた嘘。全員がそう。
でも、それが現実的な真実の姿とも思う。そんな嘘で固められていても、家族だから絆が成立する。その絆は決して嘘ではなく、それもまた真実である。

自分だったら、この作品の長男と恐らく、いや間違いなく同じことをする。
それしか手段は無い。
母親に対して、いらだちなどは数多くある。でも、母親だ。母が自分に依存するように、自分だってどこかでは絶対的な味方として依存している。
傷つけることはできない。
このあたりは、アフタートークで作・演の谷賢一さんとゲストの山崎彬さん(悪い芝居)も言及されていたが、女性は違うことが多いみたいだ。
この作品中の妹、嫁には本当に共感できない。
特に妹に対しては、遺言状の存在すら隠すという行動をまず取るだろうと思ってしまう。嘘はいけない。そんな正論で生きていけないし、自分だってそんな殊勝な生き方をしてきてなんかいないだろうに。下手な正論はたちが悪い。
嫁のスタンスも嫌な感じだ。こういう計算高さを知っても、まだ好きでいられる男の頭の悪さも同時に嫌だ。
このいらだつ姿が非常にうまく演じられており、舞台に上がって一発張り倒してやろうかと思ってしまうくらい。
妹が若林えりさん、嫁が堀奈津美さん。

母親は大原研二さんという男性が演じる。最初こそ、かつらで女性をイメージさせているが、途中からはそれも脱ぎ捨て、完全に外観は男という状態。
さらに、回想シーンでは母親はねこちゃんになる。百花亜希さんとなかむら凛さん。
この設定がリアリティーが強過ぎる話を緩和させているように感じる。
男なのに女性の心理描写、しかも専業主婦というなかなか理解し難い役を演じている姿。
表情豊かで、自分の思いのままにコロコロ感情を変化させる典型的な猫の姿。もちろん、女性が猫の姿をしているだけでちょっと可愛らしく思ってしまう本能的な気持ち。
これらが相まって、これは芝居だと教えてくれる。
これが無かったら、虚構と現実の区別がつかなくなっておかしくなるくらいに、真に迫る作品になっている。

長男が東谷英人さん。
自分も長男だから、一番感情移入はしやすいし、共感するところが多い役どころ。
はたから見ると、母親を喜ばすコツを知っており、そこをうまく突いた汚さを感じるところがあるのだが、自分のことを考えると、あんまり計算してそういうことをしていない。息子が母親にする本能的な行動なのかもしれないとも思う。
いずれにせよ、この家族の中でバランスをどう保つかのキーマンである。嘘もつかなきゃならんし、あちらを立てて、こちらも立てにゃならん。大変だよと本当に、頑張れとエールを送りたくなるキャラだった。

父親は回想シーンで出てくるが、塚越健一さん。
数字、数字に追われる人生。家族も無事に育って、ふと振り返ったら、色々と思うこともあるのだろうか。
長男と父親の間の歳ぐらいに自分がなったので、微妙な気持ちが何となく分かる気がする。
でも、あんまり作品中の行動には賛意できないなあ。
それを悔やむなら、家族を持たなければいい。そんなこと分かってたはず。
何かと代償に家族を愛し、愛される権限を手に入れたのだから。それに対する感謝の気持ちと今までの人生やこれからの人生に失望する気持ち。天秤にかけた時に本当に後者に傾いたんだろうか。
感情を抑えて、生真面目に生きてきた雰囲気を醸し出す演技。

お手伝いさんが佐野巧さん。
母親にとって、父が自分と出会う前の人生を謳歌する姿、長男のように好きなことを目指そうとしている姿に映っているのだろうか。
非常にきつく当たる。そして、その割には救いを求めるように依存しようとする。
最後に、このお手伝いさんに母親は拒絶される。それが父、長男からも否定されたかのような印象を受けた。
母親は分かっているだろうか。いくら似た姿でも、この人は赤の他人。家族は本当に意味で拒絶はしない。似た対象物に依存すること自体があさはかな行動であることを。
線の細いナヨナヨキャラからの急変が、嘘というこの作品の一つのキーワードを露骨に表現している。

思い返して感想を書いたが、やっぱり後味悪いなあ。
もう観たくないというのが正直なところ。もちろん、この作品はということ。
劇団としては非常に興味がある。
これだけ物語に力を持たせた作品は珍しい。

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コメント

この公演観劇前に前半だけアップしたブログを拝見してから不安になりましたが…^^;
観た後に帰りながらSAISEIさんは何かオーバーラップする部分があったのかなぁと思ってました…
観る人によって感じ方の違う作品でしたね

投稿: TAKU | 2012年3月30日 (金) 09時20分

>TAKUさん

コメントありがとうござます。

うん。
父親が2年前に亡くなってから、母親がこんな感じで家族、家族って、以前より強く寄りかかってくるようになってね。
私は私で、また新しい家族を作って生きるんだから、あなたも大切だけど、そこに依存されても困るよなんてことが色々と・・・
そんなことがオーバーラップして、心がザワザワしてしまいました。

価値観のような一般的な概念で捉えたり、そのまま家族のことを考えたりと、確かに色々な観方が出来る面白い作品ではあると思いますがね。

大阪では猫ちゃんとのお茶会あったのかなあ。
開演前にあれ見て、最前列は危険と察知しましたが、そんな客いじりできるような作品ではなかったね。

投稿: SAISEI | 2012年3月30日 (金) 11時01分

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