おやじのシチュー【ATLAS】120312
2012年03月12日 トリイホール
あ~あ~、泣いちゃったよ。
だって、みんな優しいんだもん。人のこと、大切に想ってるんだもん。
心温まる素敵な作品でした。
同時に、ちょこちょこ小ネタをはさんで笑いを取る腕が抜群の役者さんもそろっているので、大いに笑った。
喜び、哀しみ、楽しみを引き出された。
思いっきり笑わせておいて、泣かせるなんて卑怯だと怒りも覚えているので、これで喜怒哀楽コンプリートってところだな。
人の感情を巧妙に突いてくるいい作品だ。
舞台はある食堂。
無骨で自分のことを語るのが不器用なマスター。
下町風のどっしり構えた明るく優しい奥さん。
看板娘のいつも明るく元気いっぱいな娘。
ちょっとおとぼけ、でも家族を見守ってる祖父。
そんな食堂には色々な人が集う。
自らを王子と名乗るちょっとおかしなナルシスト。
食堂に入り浸り、何の勉強をしているのか分からないがずっと本を読んでいる男。
看板娘に兄のように慕われている男。
近くの会社で働くちょっと気が荒いが、面倒見の良さそうなOL。
そのOLの働く会社にやってきた新人OL。
この人たち、みんなに共通点がある。
全員、孤児院出身。
マスターはその孤児院で特製シチューを作ってみんなに食べさせていた。
みんなマスターを実の父のように思い、この店を愛している。
でも、そのことはなぜか娘にだけは内緒にしている。
そんな中、ある女性がやってくる。
何と、この家を数年前に飛び出た息子。
戻って来たのは二つの理由がある。
一つはなかなか手に入らない特製シチューの材料を父に渡すこと。もう一つは今の自分を父に認めてもらうこと。
でも、父はどうしても息子がこうなったことが許せない。
マスターを父のように慕う周囲の人たち、そしてこの家族たちの大切な絆が父の気持ちを変えていく。というか、元々心の底にあったマスターの優しい気持ちを引き出していく。
実際は食堂に集う人達は、各々店やマスターとつながるエピソードを持っています。
そのエピソードが自らが傷つきながらも、マスターに救われたというもの。そこから人への優しさを得ていることが分かります。傷ついた分、人に優しく出来るのね。
こんな素敵な人が集っているので、しっかりしたハッピーエンドになり心温まる話となっています。
目を引いた役者さんは何と言ってもヤマサキエリカさん(月曜劇団)だな。看板娘役。
いつもは面白いので目を引くのだが、今回はそんなことも含めて、この方自身の役者さんとしての魅力が存分に味わえた気がする。
心の底から出てくる笑顔、怒った顔、困った顔、悲しい顔・・・
表情豊かですという言葉だけでは表せないくらいの魅力。この方の表情そのものが舞台の雰囲気を作り出している。
もちろん、マスターとその奥さん、伊藤えん魔さんと桜さがみさん(劇団kocho)。
貫禄ですな。
えん魔さんは、好き放題に笑いを入れてきておいて、肝心な時にすごく真剣モードに入るんだもの。照れくさくてわざと面白いことやってるのかなと思うような演技が、この役にまたはまっている。
下手な役者さんがすると芝居台無しにするんだろうな。好き勝手やってるけど、絶対、話の展開を妨げないもの。
桜さんは久しぶりに拝見するような気がする。肝っ玉母さんみたいで温かいなあ。どんなことあっても、いつでも明るく楽しく。そんな雰囲気を漂わせた素敵なお母さん役でした。最後、もめる父と息子の間に入るのではなく包み込むような演技をされます。家族だからケンカの仲裁をする必要は無い。家族であることを思い出させ、まとめればいい。そこが強く感じられちょっとホロリ。
祖父役はさかいしんごさん(ババロワーズ)。ほっとするようなおじいさん。トラブルが起こっていても、動じず全体を調和させようと補佐的に動く。理想の祖父像かな。演出もかあ。脚本も素晴らしいけど、その中の心情がとても素直に感じとれるようにされているように思う。
OLが酒井美樹さん(四畳半ヤング)、丹下真寿美さん。
酒井さんは初見。感情そのままに動くキャラがけっこうコミカルでおかしい。丸みを活かしたちょっと自虐的なネタも。
丹下さんは、相変わらずすごく役に入り込まれるなあ。専門用語で何というのかな。メインで進んでいるところ意外で役者さんがちょこちょこされるの。まあ、こういう世界では当たり前なのかもしれませんが、そこでもやっぱり、この役のままでいてるんですよね。上記した傷ついた分、人に優しくという言葉は、この方の最後の語りの演技から感じたままに書いている。何でもこなす演技派女優さんだな。かわいいんだけど、そう書くと浅い感じがするのでやめておく。
もう、みんな書いておくか。
ナルシスト、一明一人さん。目を引くというか引き寄せてくるようなことばっかりするから。動き一つ一つが面白い。演技でああはなるまい。もう体にその面白さが浸み込んでいるのか。
本読んでいる人、冬月那瑠さん(演劇空間 無限軌道)。本当は目を引いた一番の役者さんはこの方かも。何か存在感があって、どこかおかしく、どこか優しい感じ。何もせずともそれを醸し出すような雰囲気がとても好印象。
板としあきさん(劇団新上舞)。看板娘に兄のように慕われているが、重要な役どころ。女になったマスターの息子と結婚する気でいるんです。その覚悟をもった表情や看板娘を妹のように思いやる感じがいい。実際に男前なのは私にとってはマイナスポイント。かっこいい人は嫌いです。脚本がこの方。素敵な作品を創られるんだなあ。
息子が水谷有希さん。性同一障害の役って何回か拝見したことあるのだが、たまに疑問を感じる時がある。男の風貌だけど心は女、又はその逆ですよね。風貌に焦点が当たって、たまにその肝心の心が男のままだったり、女のままだったりする時がある。この作品ではしっくりくる。父や周囲の人への想いがきちんと女性を感じさせる。まあ、実際に女性の方が演じられるので当たり前だが。このあたりは、繊細に本が創られてるなあと。
自らを自信を持って語る凛とした表情はとても素敵。
いい話だったなあ。
そして、役者さんの魅力が光る。
みんなの心が伝わってくる。
こういう作品を観ると、その後の登場人物の姿が自分の頭の中で動く。
それは観劇した者だけが味わえる最高の後味でもある。
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