追伸【空の驛舎】120318
2012年03月18日 アイホール
う~む、結局、メタファーを紐解けなかったな。
ただ、会話劇だったのが幸い。分からなくても感覚的に何かを残してくれるような作品だった。
3つのエピソードのオムニバス。
はっきりしたリンクは分からなかったが、話のかけらでつながっていることは分かる。
どれも、死へと向かっていった人に伝えたかった言葉を生死の境界のような空間で紡いでいる。それが追伸なのだが、手紙のように明確な文章で言いたかったことをつらつらと述べるようなものではない。
ありきたりの日常生活での会話から、それを言葉として生み出し、そこに人と人が確かに関わっていたことを感じさせているだけである。
何かおかしな捉え方になるのかもしれないが、逆のようにも感じている。
死へと向かった人が残された生きている人に言い忘れてしまった言葉を紡いでいるようにも思える。
いくら言葉にしても伝えきれるものではなく、追伸は終りが無い。
でも、時間は進む。死へ向かう者は、境界にいつまでもとどまれないし、生きている人も同じ。日常生活でその死を忘却へと昇華しなくてはいけない。
そんな追伸の言葉をみんな持っており、それはこんな絶対的な別れの中でしか吐き出せないのだとすれば、人は厄介なものだとも思う。
まあ、だから、人は人を求め、また求めてももらえるのかもしれないが。
舞台の真中に円形の境界。ちょっと、立体的にうねりがあるような円形である。
その中にベンチが一つ。
話はその境界線の内側で進む。
境界線の中に出入りできる者と、境界線内でとどまる、というか出たくても出れない者がいる。
恐らくはこれで生死を表現している。
境界線外は何も無い空間。そこに消えていく姿は、死ということであろう。
生なる者は出れない。どうあっても生きていかなくてはいけない。死者とともに境界線外の何も無い空間に一緒に行くことはできない。
舞台は作品中にも出てくる赤エイの姿なのかな。
これは当然メタファーなのだろうが、正体が感覚的にしか分からない。
赤エイの背中が境界線内である。ここで会話は繰り広げられ、上述した追伸が日常会話の中で語られる。
鳴り響くサイレンによって、それは終了。
まあ、イメージとしては震災の津波といったところか。
地震の大ナマズみたいな感じで捉えれば、そこから振り落とされた人は死へと向かう。必死にしがみついて背中にとどまった人は今、生きている。
ウィキで調べてみると、この赤エイは妖怪としてきちんと載っている。
上記したイメージでもあながち間違ってはなさそうだ。
背に砂がたまると、海上に現われて砂を振り払おうとひと暴れする。たまたま、近くに船でもいれば、もちろん飲み込まれてしまう。
砂がたまっていっぱいいっぱいになると、暴れてしまうなど、まさに地震のメカニズムを彷彿させるうまい比喩表現である。
そして、あの日も必死にしがみつける環境に何とかあった人が、今、生きているのだろう。
最近、KAVCで地中という作品を拝見した。
その地に、人が生きていた姿を地層のように思わせる作品なのだが、この作品にも似た表現がある。
その地に染み込むという言葉。
そこに人が生きていたという匂いのようなものを感じて、とても印象に残っている。
地中ではそこに人がいたというところまでしか感じとれなかったが、この作品はそこに人がいて、関わりがあったということをより強く感じさせられ、それが失われたことへの現実が突きつけられる。
ただ、不思議と両作品とも悲しみを感じさせない。といって、希望を大きく描いているようにも思えない。
事実を淡々と描いている感じであり、そこが人と人のふれあい、つながりを真剣に思わせるところかもしれない。
目を引いた役者さん。
今回は諸事情あって、初日観劇予定を当日にドタキャン。
出演されているイトウエリさん(手のひらに星)にチケットをお願いしていたのでご迷惑をかけてしまった。
もう、今回はご縁がなかったということだなと思っていたのだが、舞台監督さんも私の観劇の勉強に最適とお薦め、それにTwitterでイトウさんのかわいさMaxだったというつぶやきを見て、フラフラと足を運んでしまった。
かわいさMaxって、これはめちゃくちゃかわいい恰好して登場じゃないのと期待していたら、別に普通のお姿。ただ単にかわいいんだったら、普段よく拝見しているからいいんだよと思っていたら、その意味が良く分かった。
3つ目のエピソードで登場されるが、このキャラが確かにめちゃくちゃかわいい。いわゆる、天然大ボケ少女。人の優しい想いを受け取り、生きていく人へのエールを追伸として語っている。残念だったのは座る席が悪かった。客席から見てやや右側の最前列に座ったが、立ち位置の関係で最初の方の表情がほとんど見えない。この方は七変化する豊かな表情が魅力の一つ。それを全部味わえなかったのは残念だった。
1つ目のエピソードが会話の掛け合いとしてはとてもテンポがいい。
小笠原聡さん、出口弥生さん、石塚博章さん。ちょっとしたおとぼけに、軽くつっこんだり、ずれたぼけで返したりと、会話劇の楽しい要素が盛りだくさん。ただ、この時点では、設定がまだ分かっておらず、後になって、あ~なるほどと思うような状態だった。
ラストシーンがいまだ全く分からず。
自分が想定していた行動と全く異なっていた。
女性が、この円形の境界を突き破ってそのまま円の中を通り過ぎていく。
この方が抱える追伸は何なんだろう。それを誰に伝えたかったのか。
この作品自体が追伸で、それを私たち客に伝えたということなのか。
色々考えると難しいのだが、人が触れ合って生きていくことを感じとれて好きな作品だ。
そんな触れ合いが終わってしまうことがあるのだが、それを悲しみとだけとらえず、終わらない追伸という形でいつまでもその触れ合いがあったことは残っているということを思わせてくれる。
| 固定リンク
「演劇」カテゴリの記事
- 【決定】2016年 観劇作品ベスト10 その3(2016.12.31)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その2(2016.12.30)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その1(2016.12.30)
- メビウス【劇団ショウダウン】161209(2016.12.09)
- イヤホンマン【ピンク地底人】161130(2016.12.01)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
余裕があったらこれ観たいなぁと思ってたんです。
片付けに手こずり、余裕なかったんですが(笑)
でも、今日お昼過ぎくらいにアイホールの前通りましたよ
イオンモールとニトリでお買い物してきました♪
投稿: まゆ | 2012年3月18日 (日) 21時56分
正しいアプローチです。
さすがに随分と作品を読み込むようになって来られましたね。
取り急ぎ、私もブログを書き終えました。
とてもステキな舞台美術でした。
例えば配色を変えるだけで、作品はグッと分かりやすくなります。
黒地に白のサークルでしたが、これが白地に赤のサークルだったら、どうでしょう?
赤エイそのものになってしまいます。
しかもそのまま日本の国旗になりますね。
全てがあからさま過ぎて無粋になってしまいます。
だから配色を変えるのです。
サークルは境界線であり、赤エイであり、繰り返す時間の時計であり、傾いた観覧車でもあります。
舞台作品の美術が、エッジの明確な四角形で、その中心に円があるようなデザインは、おおむね日本を暗喩しています。
字幕はそれぞれのエピソードの死者からのメールで、先に読んでも解りませんが、各エピソードとリンクした内容です。
それを同じ女が着信することに意味はありません。
ラストだけサークルを横切るのも、その意味は観客に委ねられており、自由に解釈して良いのです。
サークルを様々なモノに見立てられるように、女の存在も様々に解釈が出来ます。
投稿: ツカモトオサム | 2012年3月20日 (火) 00時24分
>まゆさん
いい作品だったよ。
ちょっと難しいけどね。
買い物帰りに寄ってくれれば、いたのに(゚ー゚)
投稿: SAISEI | 2012年3月20日 (火) 01時26分
>ツカモトオサムさん
コメントありがとうございます。
舞台監督、お疲れ様でした。
舞台美術、私もこういうのを素敵だと思えるようになってきました。
配色にまでは考えがおよびませんでしたが、あらゆるものに捉えることができる面白い設計ですね。
日本を比喩する形は、たしかステージタイガーの舞台で言及されていらっしゃいましたね。思い出しました。
ブログ拝読しました。
やっぱり2つ目と3つ目の境界線の世界は逆転してたのですね。
3つ目の話がやはり一番分かりやすく、その設定に合わせて2つ目の話も後から考え直してしまいました。それでどうもしっくりこなかったのです。
2つ目も外が死の世界と捉えてしまっており、内側がどんなにひどくても生きていかなくてはいけない世界、外は死の世界。意外に死の世界の方が淡々と過ごしている。でも、死はそこで止まったものなので、自転車で同じところをクルクル回っているのかとかなりこじつけた感じになってブログも書いてしまっています。
う~ん、ここは統一してもらわないと、ちょっと厳しいなあ。
ただ、そうなると、ラストシーンも何となく分かるような気もします。
死をしっかり見つめた中で生きていく。
そんなメッセージがようやくはっきりと感じとれました。
無理かと思ってましたが、結局、観れてよかったです。
ありがとうございました。
投稿: SAISEI | 2012年3月20日 (火) 01時51分
母親と一緒だったので
そもそも、その時いるかどうか知らないですよ~
投稿: まゆ | 2012年3月20日 (火) 17時54分
>まゆさん
お母様、大阪来られてるんだあ。
それでイオンとニトリで買い物かあ。
私はかなりの確率で劇場にいるよ( ̄ー ̄)ニヤリ
投稿: SAISEI | 2012年3月21日 (水) 19時14分
部屋の片づけを始めた土曜日の午前中に電話がちょうどかかってきて手伝いに行ったんわ!ってなったのです

それで足りないものを買いに
このままだったら4年後に心臓発作おこすよってお医者さんに言われたらしく、塩分のあるものは3食中1食しか食べないような生活をしててびっくりしました。
会いたかったなぁ。残念です!
投稿: まゆ | 2012年3月22日 (木) 01時23分
>まゆさん
えらい、行動派母さんだなあ。
お体はちょっと心配だねえ。
いつも近くにいてあげられるわけじゃないし。
たまに帰らんとね。
近いようで遠いから、なかなかまとまった時間が無いと難しいだろうけど。
うちは、明日、母親退院。
仕事の方は、もう色々とめちゃくちゃになっています。
早く、切り上げて楽しく飲みに行きたいよ(。>0<。)
投稿: SAISEI | 2012年3月23日 (金) 00時17分
ちゃっちゃかした母親なので、私はだいぶのんびり育ちました(笑)
退院できたらちょっと安心ですね。良かったです。
お茶でも飲んで落ち着いて( -ω-)_旦ドウゾ
肩たたきますよ~( ̄エ ̄*)qq(^^ )トントン
はい!頑張ってヾ(。・ω・)ノ☆゚+.
できたらヾ(^_^ )ヨシヨシしますよ~
投稿: まゆ | 2012年3月23日 (金) 23時05分
>まゆさん
コレハドウモ 旦_(^_^ )
(* ̄- ̄)y─┛~~ フー
(´ヘ`;)ハー
(ノД`)ハァ ・・・
投稿: SAISEI | 2012年3月26日 (月) 10時48分