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2012年3月 9日 (金)

歪に愛情【ファッキンなデブ】120309

2012年03月09日 大阪大学会館一階21世紀懐徳堂スタジオ

テクテクとまた阪大へ。
前回、拝見した私見感さんの時とは違ったホールですね。
何か立派な建物になっとるなあ。
ここは昔はイ号館と呼ばれていた建物だったはず。
シャレた椅子も用意されているし、最近拝見している関西大学や龍谷大学、ちょっと前になるけど神戸大学といい、大学のホールは非常に恵まれているなあ。

さて、肝心の作品だが、当日チラシにはよく分からない衝動に駆られて創ったと書かれていますが、本当に何があったんだ。おかしなものにでもとりつかれたか。
厨二病芝居だなんてTwitterでは紹介されていたが、立派な奥深い作品。
その表現方法にバカさや暴れを組み込むから、何か不思議な作品に仕上がっているが、真面目に考えてしまえば、メタファー作品とも思われ、そんな気楽に観れる代物ではない。
すっかり騙され、ケラケラ笑わせてもらおうと思って、気軽に足を運んで痛い目にあう。

冒頭は何やら全身が黒で汚れた男がsex、sexと連発。
戦争なんてあるから、敵、味方に分かれてしまい、みんなとsexできない。
みんなとsexしたいというようなことをひたすら叫ぶ。
その奇抜な外観に、言葉通りにセリフをとらえれば、気がふれたとしか思えない始まりだが、実に的を得てるようにも感じる。

設定は放射能汚染で壊滅した未来の日本。
数百年経っても、その汚染はおさまらず、防護服無しでは生活できない。
しかし、そんな日本においても人類は適応し、石油を食料として生きていく人間が進化する。
そのためか、進化した人間は、全身が黒で汚れている。
日本は石油の産出が乏しい。だから、そんな少ない石油をめぐって戦争が起きている。
そんな日本に外国から一人の医師がやってくる。
医師は自分の国では認められず追いやられた人。
できる限り、自国とは物理的にも文化的にもかけ離れた日本にたどりついている。
医師は、戦争で傷つく人を助ける。ただ、その代償に必ずその人の目をつぶす。
もう戦争をしなくていいように、そして自分のことを外国人だという外観で差別しないように。
医師の妻が目が不自由で、自分のことを差別しないことに起因しているようだ。

そんな戦争の実態を医師を通じて取材する防護服を着たジャーナリスト。医師の行動、戦争の是非などはどうでもいい。自らの取材欲に従って行動するだけ。
徐々に戦争に疑問を感じ始める兵士たち。sexと連発する男に救いを求めて、その男をあがめ始める。
医師の行動に疑問を持つ兵士。医師が外国人であることへの差別を消すことはできない。そのイラダチは妻にも向かう。妻の体を奪う兵士。それを何の抵抗もなく受け入れる妻。
自らの欲に従った、相手の想いや価値観を受け入れないままに展開する各々の行動の行きつく先は・・・

大きなことに巻き込まれた一般市民の温度差が感じられる。
おかしくなった日本に巻き込まれた当事者の兵士たちとその外にいるジャーナリスト。同じ日本にありながら、内と外の世界における距離感。全身が黒色の兵士たちと、綺麗な白の防護服で纏われたジャーナリストの色のコントラストがそれを引き立たせる。
互いに攻撃しあうこともなく、相手のようになりたいという気持ちも見えてこない。互いに無視するような感じで共存している。だから、全く考えや想いは共有されていない。同じ日本人種であるという唯一の共通点が、不安定ながらそのバランスを維持しているようだ。
ラストは、この戦争が終わっても、無視した中で蓄積した相手への想いは憎しみにしかならず、この間での共有は一番無いということを皮肉に描いている。

医師の行動は、無茶苦茶ではあるが、相手の価値観を認め合うのは難しいので、始めから見ないようにしてしまうというもの。共有ということが、単なる日本人同士のような物理的な点だけで成り立つと思っているから起こしてしまうような行動。
逆に兵士とジャーナリストの間では、目をつぶすということにより、日本人同士であるという唯一の共通点も見えなくなり、攻撃し合う関係になるかもしれない。
医師がとる行動の大義名分は、価値観なんてものが存在しないような世界を無理矢理でも作り出すこと。偽善にしか思えないのは、自らは相手の価値観を見える状態にしておくために決して自分の目はつぶさない。神のように優位に立ちたいという欲の表れか。
悲しいことは、目の見えない妻のように、いくら見えなくても医師を認めるようには決してならないというところ。それを妻は兵士に平気で抱かれるというもどかしさで描いている。

医師の行動に疑問を持つ兵士。
医師への差別意識はぬぐえない、といって、価値観を押し付けられてしまうのは嫌。
それは、差別対象の医師だけなく、sexを連発する男になびくこともためらっている。
せいぜい出来るのは、恐らくは無理矢理に押し付けられているような人を見つけ、それに嫌悪を抱き、その人を傷つける。自分と同じような立場の仲間を作りたいかのようだ。
私的には、嫌ではあるが一番感情移入しやすい人である。

目を引いた役者さん。
ごきげん☆太郎さんが、いかれたsexを連発する男。いかれ具合はすさまじく、決め手となるセリフは絶妙の間で語られるのだが、その合間合間が聞き取りにくい。ちょっとおかしなしゃべり方をしないといけないので仕方ないのか。
医師がアドバタイズメント生田さん。自分の行動における大義名分が妻を奪われることで崩壊していく。その不安におびえるような表情は印象に残る。
その医師に疑問を持つ兵士、ディザスター岸川さん。んっ、この方男?女?イラダチの感情が最もあふれている。最後、死んで横たわる姿が真に迫っていて怖い。
ジャーナリスト、水野のずみさん。最後まで飄々とした姿崩さず。役どころなので仕方がないが、一番腹立たしい気持ちを覚える。前半、音楽に声量が完全に負けているところがある。後半はそんなことなかったので、緊張でもしてたかな。

過去の戦争しかり、今、私たちのような一般市民は色々な形で生活を物理的、精神的に脅かすものに巻き込まれている。
その時に、人が取る姿がいやらしく映し出されているような感じかな。
自分の大切な価値観を守りつつも、この苦境を乗り越えていくためにはどうしたらいいのか、いや、所詮、無理だから、もっと根本的なところを考えないといけないのかなど思わせる作品だった。
単に笑わせてもらうつもりだった私にとっては期待外れ。
ただ、面白い作品に出会ったなとは思う。

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