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2012年2月10日 (金)

楽園【工藤俊作プロデュース プロジェクトKUTO-10】120209

2012年02月09日 インディペンデントシアター2nd

なかなか真面目に考えると難しいお話です。
今の生活から解放されて楽園を目指す、ちょっと病んだ人たちの話ではありますが、楽園って何、幸せって何みたいなことを考えさせられます。

人に依存して、自分で物事を考えることなく、与えられるままに生きていく。単に楽して生きていれば、それはそれで幸せ。楽園を言葉で説明すれば、この作品の登場人物たちは、十分それに当てはまり楽園に生きているような気もする。
でも、そこから解放されたいという欲求。今の生活から脱却するために旅に出る。本当の楽園を求めて。
そこで、色々なことにぶつかる。つらいことに出会って、心騒ぐこともあるし、今までしてこなかった覚悟もいっぱいしなくてはいけない。
行き着いた先は本当に楽園なのか、そこに幸せがあるのか。
それでも、人は楽園を求めるのか。
聖書のアダムとイブのような話もイメージできる不思議な話でした。

(以下、ネタバレ注意。大阪は今週日曜日まで、東京でも来週公演があります。大したことはないのと、元に戻すのを忘れるので白字にはしませんのでご注意ください。味のある男優陣、魅力的な色気を振りまく女優陣がそろったこの作品はなかなか見どころいっぱいです。ネタバレよりも、見逃さないように注意してください)

不倫の末、会社からも相手からも裏切られ、傷心するOL。
何もかもうまくいかない。
そんなある日、出会った信楽焼のタヌキ。
救いを求めて、薦められる楽園へと向かう旅に出る。

売れない訪問販売を始める冴えない中年男、夫に愛想をつかし身を滅ぼし始める妻。
自分の主張を持たなければ相手に対して怒りを持つこともなく心穏やかに生きれるという正論を基に団体を立ちあげている男。
その男に救われたニートの息子、そんな息子を持ち、満たされていない生活を解消するために団体に刺激を求める母。
新興宗教団体に何年も仕えた男、宗教命令でその男と結婚している教祖の娘。
そんな人を巻き込みながら、行き着いた楽園は・・・

会社や社会や人生や、色々なものに囚われて生きている人たち。
でも、ある意味では守られた世界の中でただ生きることも出来ているような人たちです。
不満は多かれ少なかれあれど、このまま生きていくのも一つの選択肢。
それを信楽焼のタヌキに解放されたくないかとそそのかされ、OLは楽園を求める旅に出て、自らの世界を飛び出してしまいます。
聖書でいう、リンゴ食べちゃいなよとそそのかした蛇みたいなものでしょうか。
他の人達にもそんな誘惑が心のどこかに入り込んだのでしょう。
みんな、それぞれの形で自分の楽園を見つけ出そうとしています。

行き着く先は、楽苑という謎の店です。
ここでは自分の意志は必要とせずに、与えられるままに食べて飲めばいいというところ。
楽して生きるという点では楽園ですね。
でも、そこにやっぱり幸せは見い出せないのです。
それに気づいたOLは新たな一歩を踏み出すというような話。
旅の目的は楽園を見つけるのではなく、それに気づくことだったのかもしれません。
上述した人たちも、各々の形で新たな一歩を踏み出しますが、それがいい形なのかは疑問が残るところです。
少しブラックに皮肉めいて楽園探しを描いているところが、よくありがちな単なる幸せを求める自分探しの話に落ち着いていないところです。

味のある男優陣が印象的です。
おかしな団体代表の男、原真さん(水の会)。先日、劇団本公演で大阪離れるとか言われていたけど、まだ活躍されていたんだあ。あの時も面白い魅力的な方だなあと思いましたが、また拝見できてよかった。真面目に抜けたことをするのでツボにはまる時が多々あります。
新興宗教団体に仕える男、上田展壽さん(突劇金魚)。登場しただけで何か面白いという方です。失礼ながら、気味悪く、ほんわかした不思議な雰囲気は、他の役者さんではあまりお見かけしない魅力の持ち主です。今回は、気味悪さを醸し出しながら、ちょっとした優しい男気を見せるなかなかの役どころ。真摯にわき目をふらない思いを語るシーンはちょっと感動します。妻役が蔵本真見さん(突撃金魚)で、きつめのちょっとツンデレっぽい役なのですが、同劇団だけあってか、調子のいい掛け合いをされていました。
訪問販売員が工藤俊作さん。このプロデュース作品は初見なんですが、面白い方々を集めてこれはいいですね。どんな方かと思っていましたが、役どころもあってか、まあ普通の中年男。喜怒哀楽の感情表現が下手な中年らしさが漂っていました。逆にそういうキャラが妻を本当に思う気持ちを表現する時にとてもいい味が出ていました。妻が久野麻子さん(スイス銀行)。ベテラン役者さんだけあって、お二人のシーンは物静かだけど思いが伝わるとても感慨深いものでした。
団体に助けられる男、中村茂昭さん。かなり間抜けな役どころです。この方も、途中、勇気を振り絞ってというか、後先考えずに自分の楽園探しに乗り出しますが、周囲の洗脳が解けず、結局自分の狭い世界にまた留まります。この人にとっては居心地のいいという点だけで楽園だったのでしょう。その決断をした時の安堵とともに屈服したことへの隠れた悲しい思いの泣き顔は印象に残っています。
不倫相手の男、久保田浩さん(遊気舎)。このいい加減さを漂わす演技。キャラとはいえ、自分勝手、横柄、思いやりが無いという嫌なとこを詰め合わせたような人が出来上がっていました。それでいながら、最後はしっぺ返しをくらって情けない姿。哀愁あるその姿は前半の嫌な感じが効いて、少し悲しくなります。
信楽焼のタヌキ、楽苑の店長が保さん(兵庫県立ピッコロ劇団)。まあ、貫録あること。口の悪い言葉を絶妙な間で入れて盛り上げます。

奥が深く、全然紐解けていない部分がきっと多々ありますね。
サリngROCKさんの脚本だから仕方がありません。自劇団の公演とはだいぶ全体的な雰囲気は異なりますが、話の深さ加減は変わっておらず、なかなか難しいのです。
それをずいぶんとユーモアあふれる形に作り上げた演出家の山口茜さん、この味のある役者さんを集結させたプロデューサーの工藤さんの合作というところが、またこの作品を魅力的に感じさせるのでしょう。

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