赤鬼【劇団未踏座】120224
2012年02月24日 龍谷大学深草キャンパス 学友会館3F大ホール
最近、よく観る野田秀樹作品ですね。
空想と現実を行き来するような独特の世界観がなかなか難しい印象なのですが、この作品はちょっと風変わりでした。
ずいぶんと話の展開が分かりやすく、人の愚かさを露骨に浮き上がらせるような話でした。
新人公演ということで、大学1回生が中心となって創り上げたようですが、ずいぶんとしっかりしている。
素人が演技云々を言うのは、無粋なところがあるでしょうが、とても貫禄があり、綺麗な表現をされていたように感じます。まあ、一言で言うとうまいということです。
ある村の浜に打ち上げられた女と男2人が救出されるところから始まります。
3人とも、この村の住人だったようで、出て行ったけど、戻ってきてしまったみたいです。
そして、村人からもらったフカヒレスープを飲んだ女が、2日後自殺する。
話は、なぜこんなことになったのかを、救出された死んだ女の兄が回想するような形で展開していきます。
村の浜に男が流れ着く。
異国の人のようで、村人は赤鬼と呼んで恐れる。
村でよそ者だと虐げられている女は、赤鬼は決して悪い人ではないと信じ、交流を深めていく。
女の兄は少し知恵遅れで、その無邪気さから恐れながらも徐々に赤鬼に近づいていく。
女に恋愛感情を抱く嘘つきで有名な男も、疑いや嫉妬心を抱きながらも、やはり赤鬼を認め始める。
村人も一時は、そんな赤鬼を認めそうになるが、幾らかの誤解が重なり、結局は赤鬼、そしてそれをかくまう女を処刑することを決める。
赤鬼、女、兄、男はそれから逃げるために、船でこの村を脱出する。
4人は漂流する。
食料も無く、体力も奪われていく。
そんな中、意識朦朧ながらも何とか生き延びて、またこの村の浜に打ち上げられたということ。
打ち上げられたのは上述したように3人。そこに赤鬼はいない。
生き延びるために、女は男から手渡されていたフカヒレを食べて生き長らえたみたい。
救出された女は村人からフカヒレスープをもらう。
その味は、船の上で食べたものとは全く違う。
つまり、・・・
といった感じのあらすじ。
大半は村人が赤鬼を恐れ、排除しようとするシーンに費やされる。
差別、異なる文化・価値観を排除しようとする人の愚かな行動。
それを認める者さえも一緒に排除してしまおうとする残酷な集団心理が描かれる。
野田作品特有の面白い言葉使いが笑いを誘うが、あまりにも愚かさが目立ち、苦笑いしかできない。
女はこのような状況にあっても、決して絶望しない。
自らの信念に基づいた行動をとる。一時は、それが伝わり始めるのだが、やはり無理だったところが悲しい。
残りがラストへ向かう、漂流シーン。
そこには、村人から解放され、自由を求めて旅立つ笑顔があふれている。しかし、その笑顔は乾いている。
同じ価値観を持つ小さな共同体の姿。本来なら、彼女らにとって理想郷が描かれるはずだ。
でも、そこには、あの村よりも大きな絶望を覚悟していている感が漂う。
虐げられて逃げた行き着く先にある物を女も赤鬼も悲しいことに分かってしまっているようだ。
最後に知恵遅れの兄が語っている。
自分は足りないものがあるから、絶望を感じなかった。女が投身自殺した海には絶望が眠っていると。
人の経験や知識、そこから考えるという行動。得てきたものが絶望を感じさせるならば、何のために人は生きるのだろうか。
赤鬼、女、その兄、嘘つき男。
赤鬼がハウルの動く熊さん。んっ、1回生の公演だよね。この方、違うよね。そうなのかな。あまりの貫禄。外国人役も卒なくこなされる。大きな体に何か漂う温かい雰囲気が、この作品の赤鬼イメージにぴったり。
女が河西美季さん。この方からDMいただいたので、候補に入れて観に行ったんだが、主演女優じゃん。強い意思を持つ凛とした表情から、あきれ果てた表情、笑顔、絶望・・・表情豊かなのはさすがに女優さんだけあるか。
兄はオキナさん。この作品での知恵遅れという設定は知能が足りないとか言うより、無知とか世間に染まらないでまだ白色のままでいるみたいな感じなのですが、その雰囲気がとてもよく出ていました。変に障害者のような演技をするのではなく、純粋無垢な表情、語りが素晴らしかった。
嘘つき男、上原陵さん。一番、葛藤する役どころ。こいつ汚いなあと思ったり、かわいそうだなと思ったりと、感情移入しやすいキャラである。嫉妬のような表情はもどかしい感じで出ていたように思います。
大変、立派な公演でした。
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コメント
ばれてしまぃましたか…。赤鬼の彼は21歳ですが、ちゃんと一回生ですょ。この公演は一回生がわちゃくちゃしまくって作り上げました!ご来場ありがとうございましたm(_ _)m
投稿: 河西美季 | 2012年2月27日 (月) 14時55分
>河西美季さん
コメントありがとうございます。
わちゃくちゃした割には、ずいぶんしっかりした作品が出来上がりましたねえ。
とても素晴らしかったです。
次にカムヰヤッセンさんが控えていなければ、ご挨拶したかったのですが。ダッシュで5分前に間に合いました(^-^;
彼は21歳でもびっくりだよ。
これからも活躍されそうだなあ。
また、機会あれば公演、伺います。
益々、ご活躍ください。
投稿: SAISEI | 2012年2月27日 (月) 17時13分