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2012年1月24日 (火)

熱海殺人事件 モンテカルロイリュージョン【THE EDGE】120122

2012年01月22日 EPOK

昨年、一心寺シアター倶楽で行われたつかこうへい追悼企画。
その中で、この作品だけ観れなかったのです。
後、観た作品が非常に面白かっただけに残念だったなあと思っていましたが、チャンス到来です。

と、今回のこの公演、なんでか知りませんが、出演される4人の役者さんに投票し、一番ダメだった方が髪を切るというシステム。
その中にお気に入りの役者さんがいらっしゃる。
これは一票投じなくては。もちろん、プロの戦いですから、ダメな時は無残な姿を見届けようと思いながらの観劇です。

話は有名らしいですね。
私は全然知らなかったのですが、幾つものバージョンがあるようです。

警視庁部長刑事は皆から慕われ尊敬される優秀な刑事。ただ、実はオカマ。
彼の部下には何年も連れ添ってきた愛人の婦警がいる。彼だけをひたすら愛し続け、本人は結婚するつもりでいるが、それが無理であることも悟っている。
田舎の警察署から赴任してきた刑事は、部長刑事の愛人だった兄を事故で亡くしている。その犯人が部長刑事ではないかと疑っている。
今、警視庁には熱海で女を殺した疑いがある男が拘留されている。

この熱海殺人事件の真実が殺人犯の男の口から紐解かれていくうちに、同時に4人の各々に隠された苦悩が浮き上がってきます。
熱海殺人事件自体が、実は単なる痴情のもつれみたいな殺人事件ではなく悲しい話です。
殺された女、殺した男はオリンピックの補欠選手です。オリンピックなんていうとヒーロー、栄光の象徴ですが、この作品中では補欠という出場することはまず無い価値のない存在として扱われます。そんな補欠選手にとってはオリンピックが終わればもう粕同然。女はそれでもコーチが自分と結婚してくれると信じてそんな状況にも耐えてきたのに、現実は・・・
女はコーチを殺めます。
悲しみ、苦しむ女を男が安楽に導くためにとった手段が殺すということだったのです。

部長刑事、赴任してきた刑事の死んだ兄もオリンピック選手。
この二人は正選手です。
この二人にもオリンピックにまつわる悲しいエピソードがあります。
部長刑事は実際に手を下してはいません。こちらは殺人事件ではなく、実は自爆に近い事故です。
でも、部長刑事は愛した兄のある不祥事を隠して、それを殺人事件という形で収束させます。

二つの殺人事件をベースに話は進みますが、謎解きではなく、そこにはオリンピック選手と補欠、警視庁エリートと地方刑事のような栄光を手に入れた者とそこにたどりつけなかった者という悲哀を同時に描いているようです。
また、殺された女性選手とコーチ、府警と部長刑事のような通じない愛の姿も絡み合います。
女性選手は自分を殺した男の思いを知っていたでしょう。コーチも女性選手の思いは理解していたはず。決してだますだけのつもりではなかったのではないでしょうか。
婦警と部長刑事も同じく。
赴任した刑事も部長刑事のことを心の底では尊敬しています。この人が殺すわけない。でも、それを証明する根拠が部長刑事からは決して語られない。
プライドや美学のような考えを捨てて獣のように自分の思いをさらけ出せば、実は悲しい結末を迎えることは無かったかもしれません。でも、それはできなかった。
そこに人間であることの悲哀と同時に、生きることへの力強さも感じます。

この交錯する心情が単にシリアスなセリフや演技で描かれるのではなく、異色キャラを前面に押し出したおふざけや言葉のない叫びなど様々な手法で表現されているところが、つか作品の面白さの一つのような気がします。

役者さんは、皆さん、その人物の心を面白いまでに魅力的に演じるので、誰に投票するのか非常に迷いました。
部長刑事の盛井雅司さんは、そのオカマというキャラの中で狂気性を醸し出しながら、男の美学を感じさせる名演技。良かった役者さんに投票しなくてはいけないのですが、途中まではこの方に投票するつもりでした。
婦警、そして男の殺されるオリンピック補欠の女選手を演じた水木たねさん。役どころもあり、男の女性を守りたい、幸せにしてあげたいという本能をくすぐる演技。愚かなまでに人を愛する姿は、人というより女性の備え持つ本能の悲哀を感じさせます。女性ということもあり、この方に投票しておくのが本来は正解だろうと思っていましたが、私が投票せずとも間違いなくほとんどの方が投票するだろうというぐらいの魅力ある方だったのでやめておきました。
赴任した刑事が倉増哲州さん。実は自分が事件に絡むことによって、どういう形になっても悲しい結末になってしまうことを知っていたのかもしれません。なかなか本性を見せないところから、事件の概要が明らかになるに従って、悟ったような悲しみを秘めた表情が印象に残ります。
髪切りマッチとうたっているので、各役者さんの意気込みを伝えたり、稽古場で対戦意識を燃やす役者さんの姿を映すビデオが開演前に流れているのですが、完全に悪役に徹します。覚悟は初めからされており、自分がこの対戦のエンドは背負うつもりかのようでした。まあ、これこそ男の美学ってやつかもしれません。見事に敗者となり、悲しい姿を拝見することになりました・・・
殺人犯が白井宏幸さん(ステージタイガー)。この方が上に述べたお気に入りの役者さん。実際、この方に投票しましたが、それが理由ではありません。皆さん、本当に心を震わせる演技だったのですが、この方の一人語りのシーンが中でも一番良かったのです。自分が女を殺した理由を語るシーンです。
補欠であることの悲しみ、オリンピック正選手への憎しみ。その同じ補欠の女への思い。どうしてあげることもできず、憎むべきエリートのコーチに人生を奪われた女への悲しみ、怒り、同情。人なのか、こういう社会なのかどこにぶつけていいのか分からない複雑な気持ち。
こんな多くの感情が交錯する中で生まれる悲哀をそのシーンで描かれていました。
この方の特徴である、優しい表情としゃべり、雰囲気が見事にその語りにマッチしており、素晴らしいと思ったのです。蒲田行進曲などつか作品には、似たような思いを語るシーンがありますが、これが作品の魅力をすごく引き立てていると思います。その魅力あふれる演技に一票を投じたわけです。

う~ん、髪切りは何か後味が悪いなあ。
本当にダメな役者さんがいたなら、何とも思わないのだが、倉増さんも私の中ではかなり魅力的な方に映っていましたから。
まあ、男前だったので、少しは痛い目見るのもいいわなと思えたことが救いですかね。
対戦はともかく、熱のこもった思いを伝えるいい作品でした。

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