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2012年1月30日 (月)

PARADISE CITY【DEW PRODUCE】120129

2012年01月29日 一心寺シアター倶楽

年明けから、毎週通ってる一心寺。
おうさか学生演劇祭も、もう折り返しになりました。
関西学生劇団の力を結集させたプロデュース団体。DEWさんが3年以上も前から構想していたことが実現した形の公演のようです。
単に客演を集めて公演するわけではなく、各劇団の結集というオールスター戦みたいな感じなので、ご苦労は大変なものだったことでしょう。
ここは敬意を表さなければいけませんね。

そんな、こちらも注目していた公演。
否が応にもハードルが上がっていたところはあるでしょう。
そうだったにしても、観終えた率直な感想は物足りない。厳しく書けば、ちょっとではなく、だいぶ・・・
作品全体として本質的な難を感じます。
部分的に見た素晴らしい舞台セット、個々の役者さんの魅力がそれを隠していますが、やはり人や舞台セットを観に行っているわけではなく、作品として満足できなかったので評価は落とさざるを得ないところです。

荒廃した街の一角が舞台。
くすんだ鉄筋コンクリート、剥きだされた配管パイプ、もう開くことは無いようなシャッターの閉まったガレージ、誰が買うのか閑散と置かれた自販機、外部との断絶を思わせるフェンス、開発されようとしていた時期もあったのか、いつの頃の忘れ物なのか工事用コーン・・・
もうこの街に先は無い。そんなことを一目で感じさせるセットが組まれています。
見事な具象舞台です。

学生劇団は元々、立派な舞台か素舞台かに二極化する印象を持っているので、そうそうの舞台で驚くことはありませんが、今回のセットは非常に目を奪われます。
これが各劇団の色々な舞台経験を組み合わせた形で生まれたものなら、プロデュースの成功の一つの形と考えていいようには思います。

街には浮浪児3人組。体には数字が刻印されており、何かの実験体であることをほのめかします。
そんな3人組は、日々生きるためにこの街で悪さをして暮らしている。傷をなめ合うような仲間意識を感じさせながらも、それはそれで楽しく生きている雰囲気があります。
八百屋はそんな3人組のターゲットによくなっているようで、物を盗まれては逃げられる毎日。頼りない主人にしっかりした奥さん。困りながらも街や彼らの実情を知っており、黙認しているところがあるみたい。下町で根付いて暮らす一般市民の象徴と言えるでしょう。
街にやってきた新米警察官。冒頭に赴任した時の街の感想を語ります。荒廃しているけど、悪くは無い。外の世界から来ているので、街の住人で唯一第三者的な見方が出来る人。この人の感じた街への微妙な愛着が、これから壊れていくことを匂わされます。
街をよく知るベテラン警察官に付きます。酸いも甘いもよく知った上で、この街で仕事に従事しているようなやさぐれ刑事みたいな感じです。かわいらしい娘がおり、3人組と仲良くしている。街で浮いた存在である3人組が住人としての一員であることを意識させる橋渡し的な存在か。
やくざの兄貴とその手下。こんな荒廃した街で先が見えずにすさんで生きています。これといって悪いことをしているわけではない、地元にたむろするチンピラといったところ。兄貴は愛人がいて、いつもどこかに旅行に行こうとせがまれている。この街、今の暮らしからの漠然とした離脱を求める意識だろうか。
この街、最近多くの建物が取り壊されており、街の末期状態をイメージさせられます。
それの手を引いているのがどうも、やくざの所属する組の上部組織が絡んでいるようです。

組のもくろみは日々現実化してきて、遂には3人組にもその手が回り始めます。
その中で明らかになる3人に隠された謎。
こんな街でも自分たちの暮らす場所。守ろうとする住人達。
そして、突如として現れる謎のヒーロー。
この荒廃した街はどんな姿に・・・

街の設定はよく理解できます。
ただ、表面的な事実だけが分かるのであって、街の外の世界はイメージできず、作品の背景が分かりにくい。
貧富格差が増長された社会における、貧民が追いやられた街なのかとも思いましたが、それを明確に感じる事象は見つけられませんでした。組の上部組織がもう少しそれを感じさせる存在になりえるように思うのですが。

3人組や謎のヒーローは組組織の過去の実験における負の遺物であるようだが、その背景もいまひとつ分からない。そもそも、何を企んでいるのかが理解できなかったので、悪という視点で見れない。そうなると、後半の対決への感情移入がしにくくなる。
この設定が、作品で語りたいことに必要不可欠なものだったのかが疑問である。

作品の本質的なことが理解できなかったので、存在意義が見出せない役がたくさんいる。
脚本・演出家からすれば、全ての役は何らかを語るように出来上がっているから、そこを感じろということだろうが、話の展開に付いていくことだけを考えれば、かなりの役が不要に感じる。
最後により希望を持たせるエンドを迎えさせて終わらすという点で活きているようには思ったが。

街の変化が人の運命に影響を与えるなんてことを描いているようだが、はっきりとそれを感じることが出来ない。舞台上にはほとんどの時間、老婆が存在する。恐らくは荒廃して前が見えない街の姿の象徴なのだと思う。それならば、街の変化とともに、この老婆も変化してくれないと困る。ただ存在するだけなので、たまに表情や仕草での変化を確認してみたが、掴みきれなかった。
最後に生まれかわる街の姿の中にも、普通に存在しているところが理解に苦しむ。

ヒーローは何のメタファーなのだろう。
決して無敵の存在としては描かれていなかった。苦しいときに現れて、ともに闘う。ちょっと強いけど、別に全てを解決して立ち去るようなウルトラマンみたいなイメージではない。
後から、生まれ変わった街の中で人々が語り合う時に、あの時確かいたねえと話題に出てくる程度の感じだ。
街への希望を失わない住人達の祈りのような存在ならば、実験体であるというような事実は不要に感じられて仕方が無い。このあたりの感じ方も、背景を明確に描いていないからだと思う。

疑問点がたくさん沸いてくるのだが、私の感性が乏しいとはいえ、もう少し語りたかったことを分かりやすく伝える点は改善の余地が大きいと感じる。

上述したように舞台セットとともに役者さん方の魅力は非常に大きい。
3人組はリーダー格のうえしライダースカイさん(神戸大学演劇部自由劇場)、ちょっと幼さを残す久保健さん(はちの巣座)、しっかり者の衣笠梨代さん。
見事に組まれた舞台セット上を動き回る。若さあふれる、ピーターパンを彷彿させるかのような動きだ。身体能力高いんだなあと感心する。
うえしさんは白血球ライダーの人かなあ。顔を覚えています。あの時も凄かったからなあ。ちょこちょこ入れる笑いもなかなか冴えていました。
衣笠さんも見たことあるような・・・ 不確かですがかなり前に短冊ストライプの公演に出られていた気がする。この方だけしっかりしていた(他がダメというわけではないのだが)ので覚えがあります。
久保さんは何か母性くすぐるような演技だなあ。泣いている姿とかがかわいらしい感じ。うん、さすがだね。名前がいい。私の本名とほぼ一致なのです。これから応援し続けよう。

ちょっと役名が普通の名前なので忘れてしまい、役者さんと相関しなくなってしまった。
以下、違う人の名前を書いているかもしれませんが、分かる人は誰を指しているかは分かると思うので読み替えてください。
佐藤奨士さんと吉村太翔さん(劇団ちゃうかちゃわん)はやくざの兄貴と弟分。いそうな感じのチンピラ風。しっかりした兄貴に、人生をしっかりつかんでいないひょこひょこした弟分。雰囲気がしっかりしていて、この方たちだけではありませんが、役者さんとしてしっかりしている印象を受けます。
そのやくざの愛人が坂本えりこさん(劇団万絵巻)。これまで観た中では、クールに悪い感じや凛とした美しい感じの役どころが多かったので、今回のような男への無償の愛を感じさせる演技は新鮮。無邪気に男につきまとって幸せな様子や、心の奥に隠れた不安を覗かせたり、悲しみの感情を爆発させるシーンなど、表情豊かでやはり目を引く。旅行に行きたいとか男にせがみますが、組の仕事で忙しいやくざに相手にしてもらえません。普通、この方だったらすぐ行くだろと思いながら見てました。そういう点ではリアリティーに欠けとるな。

ちょっと長くなりますが、プロデュースをしたDEWさんに敬意を表して、役者さんに全部ちょっとだけコメントします。
どんな形であってもプロデュースという行動は本当に大変なことで、今後も演劇界を盛り上げるためにも頑張り続けて欲しいという気持ちを伝えたいと思います。

ベテラン警察官がゴミさん(劇団万絵巻)。汚い街で汚い連中と付き合いながら仕事をしている雰囲気が出ている味のあるベテラン風演技。最前列で見てたので気になったのだが、メイクがあまりにも露骨過ぎやしないか。
新米が三上昂太さん(はちの巣座)。普通。すごく普通。何にも染まってない感じ。ノリツッコミが少々・・・
警察官の娘、ことねさん(劇団万絵巻)。見とれるぐらいの美人だな。それはともかく、3人組と住人の間にいる役。純粋無垢な雰囲気が、この荒廃した街に似つかわず、街のバランスが揺れていることを感じさせる。

組の上部組織。トップに君臨する双子、DEWさん、ギルガメッシュさん(劇団カオス)。2階舞台に登場することが多かったので、ちょっと遠い存在みたいになってしまった。殺し屋の長佐古哲也さん、佐藤さわおさん(神戸大学演劇部自由劇場)と恰好が似ているので、混乱してしまった。双子や二人というのに何か意味があったのだろうか。似ている二人というのは不思議と狂気性を感じやすいところはあるのだが。
科学者、平川裕作さん。かな?当日チラシで役名しか書いてないから分からなくないや。前説した人ね。最初、前説で登場した時は、学生の悪ノリ風情で苦笑いだなあと思っていましたが、本当に笑ってしまった。掴みますねえ、客を。非常に面白い方でした。ネタもご自分で考えていらっしゃるのか秀逸です。掛け合いではなく、全て自己完結させる形で笑いを生み出します。ハズしても誰にも迷惑かけないからいいですね。
秘書のかとうともみさん(神戸大学演劇部自由劇場)。コメントさせれば、みんなこう書くだろうけど捻りようが無いから私も。セクシーな方でした。どっかのラウンジにでもいれば通いますね。クールビューティーな役どころを活かして、冷淡な笑いを誘っていました。
実行部隊的なポジション、イルギさん(劇団カオス)、伊藤駿九郎さん(神戸大学演劇部自由劇場)。悪い。二人とも悪い顔してる。怖い顔じゃなくて、悪い顔。悪巧みしているのをいちいちセリフで説明しなくても、表情で分かる。実はこの方たちと殺し屋も混乱している。
こうしてコメント書いていて気付いたが、どうもこの上部組織のイメージ付けが少し弱かったのではと感じる。

八百屋のご主人、岸添瑞穂さん(劇団ちゃうかちゃわん)。奥さん、森本有香さん(劇団歯車)。
荒廃した街で下町人情を思わせる、ちょっと間が抜けてるけど優しい役どころ。頼りなく人が良すぎる主人に、その尻をしっかり叩きつつも、そんな主人の考えに同調している。そんな愛らしい夫婦の雰囲気が、この街のイメージを形作っている。

謎のヒーロー、島谷二郎さん(劇団ちゃうかちゃわん)。分からない。やっぱりこの存在が分からない。カッコよく決められれば決められるほど別の意味で謎を感じる。本当に何者なんだろうか。苦悩をみせる表情は見れず、淡々とした表情。動きはさすがはヒーロー、ダイナミックである。

老婆が藤本麻瑚さん。この方もヒーロー同じく。街の象徴という捉え方でよかったのだろうか。初めは見えない存在なのかなとも思っていたが、会話はたまにしてたな。舞台上で話が進行していて、盛り上がっててもさほど興味を持つそぶりを見せない。どこか遠いところを見ている。その割には、危険が迫れば隠れる。
今だけを見つめる、先が無いことを感じさせる演技なのだが、残念なことに話の本質が分かっていないので、それをどう評価すればいいのか」分からない。

これで全部書いたかな。
っと、一人忘れている。土江優里さん。ダブルキャストだったので、私が観た回は出演されていませんでした。本来なら、3人組だったようです。へむぷろの作品でとても優しい笑顔をされており、この回の衣笠さんとはまた雰囲気の違った3人組の姿を拝見できたと思うのですが、残念です。

今回の感想は一言で言えば、満足はしていません。
関西学生劇団は数本とはいえ拝見しています。
どこも、本当に素晴らしい力のあるところです。
そんな名だたる関西学生劇団が集まっているのですから、これではまだまだ出来るはずだと思うのは仕方ないところだと思っています。
また、機会があるなら、不満の一言も出させないような最高の作品をもって現れてくれれば嬉しいです。

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