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2012年1月 3日 (火)

<DVD>珍しい凡人【箱庭円舞曲】

これもお借りしたDVD。
東京へ遠征観劇をよくされる方なので、そちらの劇団の雰囲気を少し掴んでおくのにちょうどいい。
なかなか観る機会はないですからね。

DVD裏面に書かれたイントロが非常に興味深い。
簡単にまとめて書くと、
「自分は一味違う、誰かより優れた人間のはずだ」と思い込んでいるから生きていられる。それが平凡。
世界平和みたいな大それたことは考えない。自分は普通だから。目の前に見える世界、せいぜい数十年後の未来ぐらいしかない。
でも分かってる。誰かさんよりかはいい生活してる、優れていると思い込みたいことを。それが平凡であることも。

共感が何か湧きますね。
きっと面白いのではないかと期待して観ましたが、率直な感想はすごく嫌。
作品の否定ではありません。この感想も恐らく創り手が想像している範疇だと思います。
少なくとも、もう二度と観返したくありません。逃げてると言われても、仕方がありません。
とにかく、もう観たくない。

覗き見しているかのような設定の舞台の中に、本当に平凡な人がいる。いや、決して平凡では無い。非凡でも無い。
自分を肯定化して、何かズレれば他人や社会が原因であることにしてその考えを守る。
登場人物はそんな人達。それに気付いているのか、気付かない振りをしているのか、押し殺しているのか。
どちらにしても、第三者として傍観すると、それがよく見える。
舞台上の登場人物を見て、自分が見えてないなあと思って他人事のように観るその姿が自分自身でもあり、同時に舞台上の登場人物も誰かから見られた自分の姿であろう。
そう思うと、滑稽に感じれば、それは自分にも降りかかる。憤りを感じれば、それは自分に対する憤りでもある。

また、平凡でいいと描かれているようには感じない。
平凡に対する悪意が見え隠れする。いや、悪意的には決して描かれていない。見え隠れするので、ひょっこりそれが出てきた時に、見透かされた気がして逃げ出したくなるのだ。
震災直後の作品だったようだが、平凡、普通を大義名分にする人達への警鐘にも感じる。
津波でやられたあの人達よりはいい生活してる、まだましだ。
どうでもいいとは決して思っていない。でも、復興という大きなイメージのために何をする。せいぜい募金。ちょっと踏み込んでボランティアか。だって自分は普通の人だから。非凡な芸能人とかが復興にために何かすればいい。
こんなことを皮肉っているようにも感じる。

これを客の立場で見て、自分はあんな考えはしないな、もっと違う行動をとってるなんて思うことが既に平凡。
あの舞台上の平凡な登場人物達よりかは、どこか自分は違うんだという思い込み。
DVDなので、画面に写り込むそんな観客の姿を私は同時に見る。
観客の姿も平凡な人の群れであり、それがこの舞台を歪んで見えさせる。

対面舞台に、ある家のリビングルームとその隣の家の玄関前。
この近いけど別の空間でシーンを切り替えながら話は進行する。
後半、登場人物達が入り乱れて、二つの空間はつながる。
それまでもつながっていると確信させるのに、明らかになる登場人物の相関設定もあるのだが、両空間に存在するドアの演出。
同時に連動して開閉することによって、つながりを意識させている。
家の中と外。家族と社会の現場のようなイメージを感じさせる。

大きな設定が何か唐突なところがあってよく理解できなかったが、ストで交通機関はほぼ麻痺している。
恐らくは震災のイメージで、当たり前だった平凡が、非凡な状態になったいうことなのだと思う。

リビングルームの方では、高校教師であり裁判員に選ばれた夫、その妻、甘やかされて育った息子がいる。
隣の家には、売れない芸術家、それを支援する夫の弟が住む。

夫が担当する裁判で知り合ったエイズの女性や正論しか言わないような面白味の無い同僚、金をせびりに来る妻の妹が出入りする。
一方、アパートには、NPO法人を立ち上げるために支援してくれる行政書士の女性、夫の弟のストーカー、ネット広告宣伝のプロなどが出入りする。

ありきたりのことしか言わない、踏み込めばややこしいことが分かってるから。
相手の気持ちは理解しているつもりなってるだけで、自分の思いを貫くことを優先する。
自分は悲劇のヒロイン、行き場の無いもどかしさをネットという相手不在の場にぶちまける。
他人のために頑張る、自らの挫折をすりかえて正当化する。
日常に安堵を求めていつでもそこに逃げ帰りながら、その変化の無い日常を否定する。
・・・

そんな人達が絡み合っているので、大きいものは生まれない。
うまくいかなかったら、他人のせいにして、社会が悪いことにすればいいから。
こういうところが嫌な気持ちになってしまうところなのかもしれないが、同時に強さも感じる。
結局、何ひとつうまくいかないままエンドを迎える。
でも、それでいいじゃないか。
この人たちが住む世界は、いままでの平凡が崩れた非凡な日常。
そこでも、自らの平凡を貫いて生きている。たくましい。これが見せかけじゃない力だ。
明日になれば、夫は裁判員をしながら学校でまた正論を吐いているだろう。妻は日常を守る生活を続けるだろう。息子は他力本願で甘えたままだ。
妹はまた難癖付けて金をせびるだろう。
エイズは治らない。不幸を噛みしめながらそれを武器にして生きていくに違いない。
NPO法人はうまく進まない。でも、それを目指してまた何かし始めるだろう。
その傍には売れない芸術家も付きまとう女もいるだろう。
日常を崩さないってどれだけ大変なことか。平凡でいるってどれだけ苦労することか。

平凡でいることの嫌悪とたくましさは、この作品の妻にすごく集約されて感じる。
ザンヨウコさん(危婦人)。ふてぶてしいまでに、日常から外に出て闘おうとしない姿が、そう感じる。

ラストは夫、井上裕朗さんとその弟、玉置玲央さん(柿喰う客)の互いの空間からの会話で締められる。
心の底から出てくるセリフのやり取りは、見物。
互いの日常で生きていく強さを感じるそのシーンは、凡人が生きるたくましさを強く彷彿させられる。

もう観たくないって書いたけど、それはこの作品。本当にもう観ないと思う。
HP調べたら、昨年11月の公演が「いつも誰かのせいにする」。
う~む、これもまた題名からして嫌になる作品なんじゃないか。
観たい。

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