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2011年12月19日 (月)

バイバイ【演劇集団よろずや】111218

2011年12月18日 ABCホール

広島東洋カープの津田恒美投手の半生を描いた作品。
超速のストレートで輝かしい記録を打ちたてながら、脳腫瘍で若くしてこの世を去る。
活躍していた選手時代、闘病生活が、彼の妻、姉、そして彼を慕ってやまなかった仲間たちとのエピソードで綴られる。

変に感動させようと脚色しているわけではなく、どちらかというと記録的な話として展開している感じ。
彼が実際放った言葉、起こした行動を一つ一つの話として丁寧に描いている。
そこから、彼の野球に対する熱意とともに、ユーモア溢れる一面、気弱さ、優しさ、真面目さ、責任感の強さなど、人間、津田恒美の魅力が感じ取られる。
広島ファンはもちろん、敵チームの多くのファンにも愛されたという。そして、先輩、後輩関わらず、彼を慕う野球選手も多い。
そんな理由が分かるような作品になっている。

私が中・高時代に活躍した選手。
今はもうほとんど見なくなったプロ野球だが、当時はけっこう楽しみにしていた。
阪神ファンだったので、友達と甲子園には何回か行ったものだ。
津田と言えば、この人が出てきたら、試合は終わり。
阪神は負けである。
我が阪神選手は剛速球になすすべもなく、逆転出来ずに試合終了。
そんな印象が残っているが、この作品を見ると意外にそうでもないみたいだ。
けっこう、抑え失敗でつらい思いをしたこともたくさんあるみたい。
そのたびに、生真面目な性格からか悩むことも多かったようだが、常に前向きな気持ちも決して忘れなかったことがうかがえる。

病気は確かに最初から重病であることを伝えられていなかった記憶がある。
ある日、突然、亡くなられたという印象が強い。
作品によれば、本人にも最初は伝えられず、妻、姉が必死に支えとして振る舞っていたようだ。
いつまでも隠し通すことも出来ず、それを知ることになる津田選手。言いたくても言えずにただただ献身的に彼を支えた家族。
互いの心情を思いやると何とも言葉に出来ない苦しさが伝わります。
同じようなご経験がある方もいらっしゃったかもしれません。

病気を知ってからの津田選手。
落ち込みからの復活。また、マウンドに立ちたい。
本当にそう思っていたのでしょうか。自分をそこまで追い込まないと病には勝てないと思ったのでしょうか。
周囲の思いやり溢れる言動に応えるにはそれしか無いと思ったのでしょうか。
人はそこまで本当に強くなれるでしょうか。
正直、私は疑問です。
でも、これが偽りではなく、真実を描いていることは理解できます。
そうだったのでしょう。そう思います。

自分が出来ないことは嘘で、出来ることは本当と思いがちなところがあります。
人が出来るから、自分にも出来るとは限りませんが、少なくとも出来る事実を知るということは大切な気がします。
そういうことを知ることで、自分もやってみるということはするようになるのではないかと思うからです。
要は成功体験があることは気軽に出来ますが、未体験なことはなかなか手を出せない。
自分一人の体験など知れたものですから、立派に生きた体験を持つ人の話を知ることは重要だと思うのです。
どんな時でも、立ち向かって生きた人がいる。
病という敵にも、もう少しで完全に勝利するぐらいまで闘った。
その人は周囲から愛され、それに応えようと必死だった。
そんな人がいた。雲の上のような存在ではあるけど、同時代に生きていた。だから、時代が違うからなんて言い訳も出来ない。
こんなことを思い返させてもらっただけで、私にとって、この作品を観た価値は十分にあるように感じるのです。

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