« Drop【ほどよし合衆国】110925 | トップページ | 6人の悩める観客【劇団壱劇屋】110930 »

2011年9月28日 (水)

灼熱恐龍【浪花グランドロマン】110927

2011年09月27日 大阪城公園太陽の広場内特設銀色テント

あ~、とってもいい芝居だった。
コテコテの芝居って感じなんだけど、私の好きな熱さが強く感じられる芝居。
役者さんがまたいい。この作品の雰囲気にドンピシャリとはまっている。

色んな人がいて、強かったり、弱かったり。
色んな時代があって、今や古き良き時代と言われる頃であったり、今のような希望が薄れた不安な時代だったり。
色んな過去があって、どうしようもなくダメな時があったり、ノリにのって調子がいい時があったり。
もう本当に、いいこと悪いこと含めて色々なんだけど、とにかく人って生きてる。
それが人の力だななんてことを感じました。

今の時代、今の自分をちょっと見つめ直してみる。
そんな気持ちに少しだけなれた気がします。

(以下、ネタバレしますので公演終了までは白字にします。公演は土曜日まで。)

大阪下町の紡績工場。
学も無く金も無いけど、町工場の主として奮闘する男(昇竜之介さん)。
色気なんて構ってられない、日々の生活に手いっぱい。影の主としてどっしり構える、まさに下町のおばちゃんの奥さん(めりさん)。
貧乏でも夢いっぱい。現実の厳しさに目を行かせながらも、希望にあふれかえっている娘(細原愛美さん)。
亀の甲より年の巧。人生の酸いも甘いも経験しながら、この地の中で必死に生きてきた男のお母さん(つげともこさん)。
生きるために働く。これまでもそうしてきたし、これからも。大きな幸せなんて望めない。だから小さな幸せだけ夢見て地道にひたすら働く女工(古川智子さん)。
ダメな男。何にも持ってないからそんなダメな生き方しかできない。人を騙して、人の物奪って、人の心を踏みにじって。でもそう生きるしかないから逃げ続けるブローカー(萩原慎さん)。
下町には似合わない可憐な女性。不自由なく生きてきたようなオーラが出てしまう。この地の人達のあこがれにもなるが、ねたみも生み出してしまう娘の家庭教師(中谷仁美さん)。

皆さん、特徴あるキャラで時代や場所などの設定がくっきり浮かび上がります。
この役者さん方の役のはまり具合が見事です。
特に娘役の細原さんは目を引く。元気いっぱいの笑顔はまさに希望の塊。それ以上に、会話の掛け合いや抑揚のうまさが見事で心地いい笑いを誘います。
ダメ男の萩原さんは失礼な書き方ですが、そのオーラがプンプン。味があり過ぎるぐらいでした。
前半はこんな紡績工場に持ち上がってきたうまい話をベースに展開されます。

ブローカーが連れてきた男達。コンサルティングを名乗っているがやくざ。
紡績工場をつぶして、パチンコなどの店にして楽して金儲けましょうという話。
働いて金を得るという考えが染みついている男。お母さんは当然反対だし、守らないといけない家族や女工のことを考えると到底のっかるべき話ではありません。
でも、ある日台風がこの地を襲います。
紡績工場の機械は大破。これではもう事業が出来ません。
一生懸命やってきた結果がこれ。頑張ればいいことがあるなんてうそばっかり。楽して金儲けよう。
そんな感じで話にのっかることになります。

ここで一部が終了。
10分の休憩に入ります。
台風のシーンで実際に客席に水が飛ぶほどの放水があり、舞台は水浸し。
これを綺麗にするんだろうなと思いながら、外でタバコを吸っていると、舞台の装置が次々に裏から運び出されていく。

二部開始。
びっくり。舞台が全く変わってしまっています。
紡績工場からスナックへ。工場の横にあった池の土手もすっかり舗装されており、休憩中に時間が経過したことを知らせます。

のっかったうまい話は本当にうまくいったみたいです。
スナックでノリノリの男。そして、子分のようにへつらうブローカーや連れてきたやくざ連中。
スナックの女に入れあげる。家庭はめちゃくちゃ。うまい話には裏がある。

ここからは悲劇の連鎖です。
前半の貧乏くさくて、騒がしく、上品さのかけらも無い下町の生活。でも、どこか希望が見えるような大変ながらも楽しい生活。
そんな失った時を思い起こしながらも、もう戻れない現実を突き刺すように見せられます。
楽しかったと思うのは忘れたからだという劇中の言葉が物語るように、その時はその時でつらかったはず。今の時を決して悲観せず、各々が生きていく姿が描かれます。

実際、一部では隠れていた色々なことが露出し、その恨み・憎しみの中で互いに傷つけあうシーンが連発しますが、死んだ人はいません。傷つけた人、傷つけられた人ともに、これからも生きていく。それがどんな人生になるかは分かりません。もう一度立ち直っていい人生を過ごすかもしれませんし、腐った最悪の人生を迎えるかもしれません。このあたりは作者に死ぬことを許されず生かされた感じがします。作品名の人間の熱を信じているということでしょうか。
もちろん作者なんてものはこの作品中に出てきませんが、私の中では池の龍神様、恐らく娘の友達の転校して行ってしまった女の子(村井友美さん)が、オーバーラップしているように感じられました。

少し理解しきれていないのですが、最後になって初めて冒頭近くに登場したある謎の女性の正体が分かります。
時間軸をずらしたような形で登場していたみたいです。
その女性は何かを伝えたくてあの紡績工場にやってきているのですが、結局は何も伝えずに立ち去っています。
伝えたいのではなく、あの頃を見に来ただけなのか、何をしたかったのかはよく分かりません。つらい思いをするに決まっているのに。
ただ、今を生きるということを何かおぼろげながら感じさせてくれます。
役名に何か隠されているのかなと思って調べましたが、特に何も無いみたいです。

最後はこの場所で公演することを活かしたすごい演出で幕を下ろします。
劇中に出てきた生糸を運ぶシルクロード。
世界の様々な物や文化が入り込んできた歴史ある道。名前のとおり世界を紡いできた。そして、そんな様々な文化を一同に集めた万博。
過去から未来へ。進歩と希望のモニュメント。これが美しく照らし出される。
小さな下町を舞台にしながら、もっと大きなことを語ろうとしていることは理解できます。
大き過ぎて漠然として言葉では書けませんが。

屋外を活かした面白い演出に、なじみやすい話の中に秘められたメッセージ。
非常に魅力的な公演でした。

|

« Drop【ほどよし合衆国】110925 | トップページ | 6人の悩める観客【劇団壱劇屋】110930 »

演劇」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 灼熱恐龍【浪花グランドロマン】110927:

« Drop【ほどよし合衆国】110925 | トップページ | 6人の悩める観客【劇団壱劇屋】110930 »