新世界BALLAD【Z system】110428
2011年04月28日 アイホール
う~ん、改めて芝居は面白いと感じる。
けっこう深くて重苦しいテーマなのに、笑の街、大阪を題材にして、コミカルな役者さんの演技だけで、こうまで気楽に観れてしまうところがすごい。
気楽と言っても、コメディーを見ている感じではない。
男臭い熱い人が揃っている。大事なところでは男よりよっぽど度胸の座った女性ばかり。
大阪への想い、愛、友情、義理など、別に大阪だけではないだろうが、基本的に大阪人が大事にしていることをバカなまでに熱く守ろうとする人達の姿が描かれる。
最後は全体的に見て、大事な物を守ったという一応幸せな結末。
だが、個々を見れば、守るべきものを守り切った者もいるし、失った者もいる。
守るために大き過ぎる犠牲を払ったという現実がしっかり刻み込まれているところが、作品をよりリアルにしていた。
別次元の大阪が舞台とでも言えばいいのかな。
舞台はいきなり対立する二つの族の決闘シーンから始まる。
決着をつけるべく対決するさなか、警察が動き出す。
一方は相手をかばうように警察に突撃、もう一方は嫌々ながらもそれに甘んじて逃げのびる。
時は進み、大阪はずいぶんと風変わりする。
大阪弁を禁じる法律が制定され、大阪人が次々と言語再教育の名目の下、収容されている。
みんな、大阪弁を取り締まる言語警察に捕まらないように、何とか標準語を話そうとするが、なかなか染みついた大阪弁は抜けない。
収容されてしまったビリケンさんを愛する喫茶店のマスターも生粋の大阪人。
コテコテの奥さんに娘。
楽しい家族、そしていつも集まるヤクザやロシア人など愉快な大阪を愛する人達で店は繁盛とまではいかないまでも、にぎわっている。
収容所の中では、様々な人たちが再教育を受けている。
管轄する警察幹部には孤独を愛する冷徹な男に、その下で働く男。逃げのびた族の方のリーダーだ。
そこには法律を撤廃するべく活動する反組織グループの者が多くいる。
ある時、大脱走計画が実行され、グループのリーダーの下に結集する。このリーダー、警察に突撃した方の族の元リーダーだ。
リーダーを愛し、ともに活動を続けている有能な女も一緒にいる。
場所は喫茶店。一緒に逃げた義理で協力することにしたらしい。
収容所にいた他の人達もそこに集まる。
小さな娘がいる母親、反組織グループリーダーとの子供を宿した恋人、母親がどこかに収容され心配している男。
そんな人達が組織への抵抗を試みる中、絆を深めていくが、そこには嫉妬や裏切りも存在する。
単なる大阪人迫害にとどまらない、隠れた政治的陰謀。
反組織グループの目的は達成されるのか。
そのために、何を守って、何を犠牲にしたのか・・・
まとめて書くと複雑になってしまいましたが、話の筋道は比較的簡単。
政府の陰謀に騙されず、戦い抜く決意を持った庶民の行く末が描かれている。
途中、ちょっと趣向を凝らして落語風に状況説明のシーンなどがあり、話にはスムーズに入り込めるようになっている。
ちょっと設定が飛び過ぎな箇所も散見されるが、まあ、そんな世界の話なのだから仕方がないか。
政府が悪で、庶民が善という訳ではない。
複雑な事情が絡み合い、それがたまたま違う方向へと進んだがために対立しただけ。
現実の世の中の対立もこんなものかもしれない。
悪意を持って悪をするということは意外に少ないように思う。
だから、対立は奥深い。ともに大義名分をしっかり背負っているから。
ネタバレになってしまうが、最後は反組織グループの目的は達成され、新しい大阪が生まれる。
この戦いで孤独で冷徹な政府のリーダー、反組織のリーダーはともに死ぬ。部下であり、友達であった残された男は何を背負って生きていくのだろう。
反組織リーダーの子を宿す女は、子供にこのことをどう話すのか。反組織リーダーを愛し、ともに活動してきた女は、自分が愛されていないことを知り、さらに現実に愛する人を失う。そんな悲しみの中で反組織グループの目的が達成されて何の意味を感じるのか。
母親が収容されている男は、これにつけこまれ政府側のスパイとして活動するが最後にばれる。しかも、母親はすでに死んでおり、政府に利用されていただけ。全てを失い、自暴自棄になって政府のリーダーを傷つけるまでの行動を起こすぐらいまで追い込まれた男が見る新しい大阪はどう目に映るのか。
最後の一応のハッピーエンドの中に見え隠れする大きな犠牲が深く感情を揺さぶる。
色々と考えさせられる作品。
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コメント
いつもご観劇いただき、誠にありがとうございます。
劇団鉛乃文檎の泥谷です。
達者な客演陣と、エネルギーに満ちた若手役者陣に囲まれ、今回も微力ながら奮闘させていただきましたが、しっかりと作品を受け止めていただけたようで、本当に感謝しております。
前回の火ゲキ30×30は徳島出張で残念ながらご観劇いただけなかったとのことですが、また8月にミクロトゥマクロの本公演に出演させていただくことが決まっておりますので、よろしければそちらにもまたぜひお越し下さい。
本当にありがとうございましたm(__)m
投稿: 泥谷 | 2011年5月 3日 (火) 15時24分
>泥谷さん
コメントありがとうございます。
まだ覚えていてくださったんですね。
嬉しいです。
火ゲキを見逃したので、ご無沙汰になってしまいました。
思っていた以上に壮大な作品だったのでびっくりしました。
相変わらずの人間味あふれる演技を楽しませてもらいましたよ。
おどけた大阪弁の掛け合いなどはけっこうくすりとしました。
最後は多分こうなるんだろうなとは思っていましたが、ちょっと見ていてつらい役どころでした・・・
次回のMicro To Macro、楽しみにしています。
DVDを幾つか拝見させていただいた限りでは、ここはきっと私の好きなタイプの作品だと思っています。
お体に気を付けて益々ご活躍ください。
ありがとうございました。
投稿: SAISEI | 2011年5月 4日 (水) 02時29分