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2010年8月20日 (金)

<死の淵をさまよう その1>ALS(筋萎縮性側索硬化症)

ついに来るべき日が来たのかもしれない。

発症から約3年。今年の夏にはもう・・・と言われていたのに、介護やアルファリポ酸など抗酸化剤点滴も延命につながっているのか、死が見えてこなかった。

ついこないだまで、スポーツ新聞を見せれば読んでいたぐらいだ。

分かっていたとはいえ、突然やってくる緊急事態に思っていたほど冷静に対応できない自分がいる。

8月16日
22:30頃、母からメール。題名は「ショック!!」。
以下のような緊急事態なのに、メールという手段を使ったり、話を深刻にしないのはうちの血筋だな。
父の様態、39度9分の熱。血圧60,40。
何と珍しいことに、その日、私は飲んでいなかった。こんなこと1年に1回あるかというところだ。
きっと、車を運転して今から向かえば最期に立ち会えるのだろう。神様がそうしてくれたんだ。そうじゃないと、この日に限って飲まないわけがないもの。
でも、この日は何とも言えない状況で帰宅。

8月17日
9:00頃、会社で後輩に今の事情を話し、いざという時は仕事をお願いすることを伝える。別に普段からお願いしてばっかりだから、今さらってところですがね。
ちょうどメールが入る。題名が「シクシク」。死んだのかなと思う。
内容は血圧80,50。尿が全く出ない状態。主治医が話をしたいので、当直だから夜中でも構わないので来て欲しいとのこと。
病院に向かうことにする。それでも、今やっているビリーズブートキャンプはしっかりやってから向かう。生活スタイルを変える気は無い。ALSという病気。来たるべき日が来ているというだけだ。あせっても仕方がない。

主治医と面談。
誤嚥性肺炎とIVHが感染している可能性があるみたい。
今している左足のIVHを取り外す前に、右足に新しいIVHを確保する必要がある。そうしないと栄養を体内に入れる手段が無くなる。
状態はかなり悪いので、右足にIVHを作る手術で最悪の事態もありえる。この主治医、悪い人ではないが、とにかく問題を起こすことの無いように行動する異常なほどの慎重派。このリスクが高い手術を勧めてくるのでよほど、危険な状態なのだという判断ができる。
迷ったが、右足に新たにIVHを作るのは拒絶した。あくまで、現時点ではという話。このまま感染が収まらないならば、検討するという返事。IVHが感染源という明確な証拠が無いからだ。
ある意味で、危険な状態で放置ということになるが、元々、究極の状態で積極的な処置を求める気はない。

この日は夕方に病院を後にする。いつもどおり、観劇にも行く。そして、北新地にも飲みに行く。少々、意地になっているところもある。こんな訳のわからない病気に関わることになって、それに振り回されるのはごめんだ。父だって家族が生活を犠牲にすることになるのは不本意なはず。昔からそんな人だった。

特に普通に観劇して飲んでいたが、23:00頃、急に酔いが回り始める。このパターンはまずい。最悪、倒れるパターンだ。過去にも何回かあるが、少しやばそう。やはり、いつもどおりの体調、精神状態では無いみたい。いつでも冷静な男を振る舞おうとしても、大したことない。酒一つでこのありさまだ。でも、早く気付いて良かった。急いで、店を出る。こんなところで倒れでもしたら、もうお店に来れなくなってしまう。呂律の回らない口調でお見送りしてもらったママさんに挨拶までしたのは覚えている。その後の記憶は途切れ、戻った時点は、電車の駅員に終点ですよと起こされるところ。二人掛けのイスにつっぷして寝ていた。恥ずかしい。完全に嫌な眼でみんなに見られる酔っ払い中年サラリーマンの姿だ。しかし、ここまでなったのは初めてだ。はかなかったことは偉いと褒めておこう。その後の記憶もない。次に覚えているのは、朝5:00ぐらい。全く二日酔いが無く、気持ちよく目覚めた。

8月18日

朝、気持ちよく目覚め、6:30からいつもどおり、ビリーズブートキャンプ。7:30頃、後輩たちもやってきて仕事を始める。さて、少しは仕事を手伝っておかなくては先輩のメンツがと思っているところに電話。
様態悪化。主治医に会わせたい人を呼ぶように言われたらしい。ついに来たというところだろう。
後輩たちに病院に向かうと伝え、タクシーを呼ぶ。5分で到着とのこと。
10分たっても来ない。もう一度、呼び直す。連絡が入ってなかったらしい。どなりつける。
朝の渋滞の時間帯なので、電車で向かう。変にイライラするのも嫌なので。
病院には9:00頃到着。いつもの病室へ。ベッドが無い。あ~、遅かったか。どこに行けばいいんだろう。霊安室かなとか思っていると、看護士さんがやってくる。個室に移しましたとのこと。

個室に向かうと、父の姿が。
確かにこれはやばい。生気が全く無い。意識も無くなっているのか、何の反応もなし。
足先は完全に真っ青。血液循環もおかしくなっている証拠。呼吸もトギレトギレだ。
主治医と話す。
どうなるか分からない。ただ、ギリギリのラインで変動しながら数時間から数日を過ごすことになると思うとのこと。

病室では暗い時間が流れる。私はもう覚悟しているぐらいの気持ちだが、母、妹はまた各々違った感情だろう。
最悪の事態が来た後の事をどうしても考えてしまう。母に家族葬をお願いすることになっていた葬儀社の連絡先を教えてもらっておく。
父のまだ話せた頃の遺言では、そのまま火葬場に直行してくれだったが、私は初めからその約束は破るつもりでいた。病院から少なくとも一度は実家に戻る。父の建てた家だ。諸事情あって今から約30年前に、東京の出世街道を捨てて、覚悟の転勤でやってきた。本当は家で死にたかっただろう。でも、それは色々な事情が許さない。病院で死んでもらう。だから、最後に家を見せてから火葬するつもり。死後硬直していても、所詮40kgも無い体になっている。かついで全ての部屋を回るぐらいはできるはずだ。しかもちょうどいいことにビリーズブートキャンプで鍛えている最中だ。

そんなことを考えていたら、様態がかなり良くなってくる。ドーパミン持続点滴や酸素マスクの効果で血圧も正常に戻りつつある。
夕方16:00頃、意識がほとんど戻る。妹を見て少し笑っている。母の姿を見て少し安心している。一応、息子の姿も確認できているみたいだ。何のリアクションも無いけど。
一度実家に戻ってまた来ることにする。実家と病院が30分程度の行き来できるのは本当にありがたい。
夜、また悪化し始める。血圧も80,50ぐらいに。
こうして変動しながら体力を削られ、最期を迎えることになるのだろう。
私は帰宅して、また明け方来ることにする。

8月19日

呼び出されてから24時間。依然、厳しい状態ながらも、最初ほどの切羽詰まった感じは無い。難しい問題だ。このままというのも困る。ずっと意識昏迷に近い状態で、今まで以上に伝えたいことが伝わらずに生きるのも苦痛だろう。
悪い想像も考えてしまう。ドーパミンと酸素マスクだ。これを外せば、多分死ぬ。たった2本のチューブが父の生命線だ。

お昼頃、一度家に戻る。少し寝る。病室ではすぐにアラームが鳴るし、ソファーなので5分と熟睡できない。戻って仮眠。

夕方、父のこめかみにセンサーが取りつけられる。ナースコールだ。家族の誰かが付き添っている。危険な状態なので看護士も頻繁にやって来る。このごに及んで何でナースコールが必要なのか分からないが、不安で仕方が無いみたい。少しだけ動く筋肉を収縮させるだけで、センサーが反応するナースコールだ。

夜、血圧も110、70ぐらい。熱は36度9分。感染は収まっておらず、白血球数が異常に高い。このままどうなるか分からない。恐らくはこの小康状態から、ある日突然ということなのだと思う。
厳しいけども明日ぐらいには付き添いも考えないといけない。母は今日も含めて2日連続ほとんど病室にいる。ずっと死ぬのをスタンバイして待っているわけにもいかない。

父は何かを訴えている。もう我慢ならないというような表情だ。そりゃあそうだ。どんどん動けなくなって、完全な寝たきりになってもう1年弱。生きる屍だ。
ドーパミンを外すようにいっているみたい。つまり殺せということだ。
私は外すのはありだと考える。しかし、一度してしまった処置をやめるということは医療機関が許すわけがない。痛みがあるらしく、これを緩和するためにも外してもいいのかもしれない。でも、本当に血圧が下がって意識は無くなるだろう。
まあ、明日の明け方の様子を見て考えよう。
(ここまで、8/19の夜に記す)

8月20日

5:00頃に病室へ。酸素マスクがカニューレに変わっている。昨晩、父が色々と訴えたようだ。もちろん、しゃべれないので、母が目だけで意思疎通しながら看護士に伝えたようだ。
私も父と目で話す。
本当にドーパミンを外すのかだ。そうしてくれと言っているみたい。
もう家に帰って最期を迎えられるように主治医に話そうかという問いには答えず。もう意識が長い間もたない。すぐに混濁状態になってしまうようだ。
とりあえず、今日は朝、会社へ向かう。

7:30頃、会社へ。熱心な後輩たちはもう仕事を開始している。
不幸中の幸いだ。彼らがいなければ、私一人で仕事をしなくてはいけないところ。この状態では、もう精神的にまいってしまっていただろう。
状況を説明。土日は何もなければ、私の仕事担当だ。今日までは休むことを伝え、少し残した仕事を終えてまた、病院へ。

主治医と話す。痛みに関してはロキソニンの内服・座薬で対処したいとのこと。ドーパミンを外すのは医師としてはできないが、患者家族の希望ならば従うと言われる。
病室で父と付きっきりの母や妹を見ながら、30分程度考える。
父の様態は良くなってきている。2日前は本当に死にそうだったので、その時ならば外す決断は簡単にできたかもしれない。
母や妹に帰って欲しくないアピールをしている父。昔から強がって毅然とした態度でいながらも、本当は甘えんぼだ。これは、私には見せないようにしているつもりだろうが、良く知っている。なぜなら、私もよく似たところがあるから。性格はやはり引き継いでいる。本当はだらしなく甘えて人に依存する、そんな姿が本性なはずだ。
甘えさせてくれる人、それを蔑視することなく受け入れてくれる人。それが母であり娘である妹なのだろう。そういう人を人生の中で手に入れた父は、ある意味勝者だと思う。

そんなことを考えながら、決断する。ドーパミンを外すのはNoだ。一時期はもういいという気持ちに父もなったみたいだが、今は生きようとしている。いや、死ぬのを不安に思っている。ただ、痛みを減らすためにもドーパミンの量は減らせるならば、極力減らしてもらう。そして、不安を取り除くためにも睡眠導入剤なども処方してもらうことにする。
それでも、決断が正しいのかは分からない。なぜなら、仮に元に戻ったとしても、ALSである以上、身動きできない状態で、徐々に筋肉が動かなくなる日を過ごすことに変わりはないから。
死ぬチャンスを逃したのかもしれない。2日前に、全ての対照治療を拒否していたら、今頃は。

どうなるか分からないが、このまま週末を迎える。

快方に向かって元に戻るかもしれないし、来週もこの不安定な状態がまだ延々と続くかもしれない。
来週の月曜日の時点で、今後のことはまた判断し直す。

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コメント

最初連絡がメールとは…


その時その時の決断の心労をお察しします

投稿: まこと | 2010年8月21日 (土) 07時18分

劇団鉛乃文檎の泥谷と申します。

8/17の公演終了後に、SAISEI様にご観劇いただいていたことを知り、無邪気に喜んでいたのですが、まさかそんな大変な状況の中で、わざわざお時間を割いていただいていたとは、思いも寄りませんでした・・・

私のような赤の他人が、安易に言葉をお掛けする状況ではないということは十分に理解しておりますが、それでもSAISEI様及びご家族の皆様が、心穏やかに過ごされることを、お祈りしております。

猛暑の中、心労も重なり本当にお疲れだと思いますが、くれぐれもご自愛下さい・・・

投稿: 泥谷 | 2010年8月21日 (土) 20時35分

>まことさん
8/21 21:00現在。依然、状況変わらず。
正直、もうこっちが疲れたよ。
まことさんのお父様も呼吸関係弱いんだから、いざという時のことを考えておかないとね。
う~ん、それにしても困った(ノд・。)

投稿: SAISEI | 2010年8月21日 (土) 21時04分

>泥谷さん
ご無沙汰しております。
まだ、覚えていただいていたのですね。
とても嬉しいです。
思い出してもらおうと、生意気にもSAISEIの名で差し入れさせていただきましたが、無事効果があって良かったです(゚ー゚)

色々とあって、観劇感想記事が遅くなってしまいました。そのため、こんな記事を読むはめになってしまい申し訳ないです。感想記事もアップしましたので、お暇な時にでも是非ご一読ください。

バタバタしている時に何を悠長に観劇だと、普通の人には叱られそうですが、スカイフィッシュ・ワルツは本当に観に行って良かった。
観る側にとって、良い作品に出会えるほど心穏やかになることはありません。
ましてや応援したい役者さんが、ばっちりご活躍されているのを見れることがどれだけ嬉しいことか。
熱くて優しい男。とても素敵でした。店長さんの役しか見たことがなかったので、ちょっとびっくりしました。
まあ、根本的には同じものを持っているような気がしますがね。
振付とかもするんですね。多才ですなあ。

今、手元に次回出演のチラシが無いのですが、次回は12月でしたっけ。
さらなるご活躍期待しています。
それまでに、購入したDVDを鑑賞して、昔のお姿を楽しませていただきます。

お忙しい中、コメントありがとうございました。

投稿: SAISEI | 2010年8月21日 (土) 21時21分

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