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2010年3月 9日 (火)

MOTHER【ピースピット】100307

2010年03月07日 シアトリカル應典院

初日に引き続き、観劇。(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/mother100304-60.html

感動、感動の嵐でした。今日は客側も作品を創った方々への敬意を最大に表したのではないでしょうか。会場がとても暖かい雰囲気に包まれていました。その場にいれたことをとてもうれしく感じています。

作品の中のセリフでもありますが、おおげさですが、生まれてきて良かった。こんな作品に今、出会えた幸せでいっぱいです。

物語の始まりは、高校生の女の子「つるの」が先生の子供を身ごもるところから。同級生の親友やつるのを思う男の子に、世間の非難の目から守られながらも、残念ながら流産してしまいます。悲しみの中、出会ったつるのの想像上の「ぼーちゃん」というキャラクター。絶望のぼーです。
時は流れて、つるのの家。そこには妊娠したつるの。お父さんは結婚した同級生の男の子。同級生の親友とその旦那も遊びに来ています。でも、つるのの様子が少し変。ずっと一緒だったぼーちゃんがいなくなったというのです。つるのを理解する旦那は一緒にぼーちゃんを探しに、つるのの空想世界に入り込みます。
空想世界にはつるのの創り上げたキャラクター達がたくさん。マダムジョー、スイッチ男爵、バーボン大佐、忍者タカマル、人攫いの王と攫われた王妃。このキャラクター達と出合う中で、二人の子供の様々な将来の姿を知ります。オカマ、殺人鬼、人攫いにあった者、ヒゲをはやした者、ロリコン、病気で小児で死ぬ者。彼らは、つるのの空想上の世界に存在し続けるために、彼女に子供を産ませないように仕掛けてきます。彼女自身も高校時代の流産で子供を産むことが許されないようにも思ってしまっています。
マタニティーブルーに浸食されゆがみ始めている空想世界に、とつきとおかの日が迫り、やがて胎動が空想世界を終わらせようとします。
そんな時にようやく見つかったぼーちゃん。ぼーちゃんは彼女に高校時代の悲しみにくれる過去の彼女を会わせようとしていたのです。母になれなかった自分と向き合うことにより、つるのは母になる女となります。この時、ぼーちゃんは希望のぼーに。
しつこく迫る空想世界のキャラクター。普段は頼りないつるのの旦那がぼーちゃんに応援されて、渾身の一撃。
空想世界が終りを告げた今、つるのを守れるのは自分しかいないので。
もうすぐ産まれそうです。旦那、親友夫婦はあたふたしながらも彼女を病院へ。そして・・・

あらすじはこんな感じ。流れ重視にするため、多少飛躍して書いてしまっているところもあります。細かなところに異論はあるでしょうが、ニュアンスということでご容赦ください。

初日に観劇した時と違うシーンがありました。途中、殺人鬼の子供の将来の姿が病気で小児で死ぬ姿の子供を殺そうとするシーンがあります。この時、つるのは異なる子供の将来の姿の二人のどちらかを犠牲にしないといけない選択を迫られます。二人とも自分の子供なので、つらい選択です。初日観劇後に、劇団のブログを拝見したところ、本当に選択は役者に任せており、その時の選択によって進行が異なるようになっていたようです。初日と千秋楽では、犠牲になる子供が異なっており、確かにそのシーンは違う物となっていました。こんな見せ方をするなんて衝撃的ですよね。やる方は大変だろうに、見る側を楽しませてくれようとする心意気が素晴らしいです。
よく考えると、私が初めて観劇した「千年女優」も、この作品と同じ末満健一さんの作・演です。この時も、たしか途中5人の役者さんがどの役をするかを客に選ばせて、進行させていました。単純に、この部分は役者さんは全ての役を出来るように準備しておかないといけないわけです。常識を超えた楽しませ方だと思います。初めから、こんな作品を観劇しているので目が肥えているのかもしれません。

このシーンはすごく印象に残っていて、男だから、本当には理解できていないにせよ、母の強さ・優しさを感じました。ここまでは泣きそうになっても、うまく笑いを入れられたりして、感極まりそうだけど、引き戻されるみたいな感じだったのですが、このシーンで一挙にきてしまいました。

長々と書いていますが、妊娠した女性の気持ちをファンタジーの世界に巧妙に合わせており、とても魅力的な作品だということです。

ほとんどがDVDだけど、数々のピースピット作品を拝見させていただいていますが、これが一番好きだなあ。小説でも映画でも、とにかく見終わって優しい気持ちになれる作品はすべて名作です。人の一番大切な感情を引き出すのですから。

公演中は涙をこらえていましたが、公演終了後、京阪電車で帰宅する途中は、特技は涙をすぐ出せますと言ってもいいぐらいに、思い出したらすぐ泣ける状態に。

最後に役者さんの紹介を簡単に。HYT4の方は省略。HYT4の方もちょこちょこ出演されてるのですが、顔と名前がまだ一致していないので、これから見かけた時に書きます。

つるのは前渕さなえさん(TAKE IT EASY!)。独特の天然ボケっぷりに、優しい雰囲気。今回の役はぴったりでした。本当に素敵なお母さんになられるだろうなと感じます。最後の母になれなかった高校生のつるのを抱きしめるシーンは思い返すだけで涙が出てきます。

つるのの高校時代が橋爪未萠里さん(劇団赤鬼)。この方だけじゃないけど、七変化でしたね。制服にファンタジーっぽい服にバスタオル姿にと。かわいらしい方なのでどうしても目がいきます。妊娠してしまってもまだ事の重大さが分からず、悲しい結果になって始めて気づくような未熟な女の子の感じがすごく出ていました。母になれなかったつらさを見事なまでに表現され、その弱さとともに女性の強さを兼ね備えた素敵な役でした。

旦那は山浦徹さん(化石オートバイ)。観ないと分からないでしょうが、とんでもない風貌で登場します。普通の状態でも雰囲気あるベテラン男優さんなのに、あんなことすれば、会場がどうなるか。つぼに入った人が何人もいるみたいで、最後の最後まで笑っていた人がいました。頼りないけど、つるのを大切に思う優しい旦那を演じられていました。

この旦那の高校時代が吉田青弘さん。山浦さんに合わせて、これまた独特の風貌で登場です。別に空想世界の忍者タカマルも演じられています。前回公演のTRUMPで初めて知った役者さんなのですが、ちょこちょこ面白いことしたりするので、私の中ではけっこうつぼです。出てくるだけでちょっと笑ってしまう。

つるのの親友は清水かおりさん(TAKE IT EASY!)。ほんわかしたつるのをいつも見守るいい友達という感じがすごく出ていました。本当に友達なんだなと思ってしまうほど。まあ、同じ劇団だから、本当にそうなんでしょうが。

親友の高校時代は中野裕貴さん(泰平堂)。もう、この方はファンですから褒めるしかしません。前回記事で書いたからいいですね。でも一応書いておきます。かわいい。
アイドルじゃありませんから、きちんと役者さんとしての感想も書いておきます。つるのを本当に優しく見守る役がすごくはまっていました。こんな素敵な友人を持つことほど幸せなことはないでしょうね。あと、この方の独特の間のあるセリフ回しですごく面白い時があります。表情も豊かですし、本当に魅力的な役者さん。言うことなし。

その旦那が岡本拓朗さん(劇団赤鬼)。別に空想世界のバーボン大佐も演じられています。劇団赤鬼で観ているように、テンションが高い。くどそうな役を輪をかけて本当にくどくされます。ちょこちょこ茶目っ気がある面白いことをされていて、楽しそうな方です。

高校時代のつるのを妊娠させる先生が山田かつろうさん(売込隊ビーム)。いやらしい性格。二つの意味で。性的にも、性格的にもいやらしい役をひょうひょうと演じられます。そんなことないでしょうが、本当にこんないいかげんな人なんじゃないかと思うぐらい。

空想世界のマダムジョー、鈴木洋平さん。要はオカマ役。活発なさわやか好青年みたいな印象が強いので、こんな役もこなすんだと感心しました。動きが大きいので、マダムみたいな偉い人役は似合いますね。一人芝居のように舞台の独断場のシーンは、その人を引き込む能力に圧倒されます。

同じくスイッチ男爵、立花明依さん(泰平堂)。自分のキャラクターが完全に分かっているんでしょうね。それを思いのままに生かした役で楽しませてくれます。宝塚の男役出身ですと言っても違和感の無い清涼な雰囲気漂う男前が、こんなファンタジーの世界で訳の分からないスイッチをいっぱい持っている男爵を演じるのですから、ギャップ笑いは必ず起こります。個人的には一番好きなキャラクターです。かっこよかった。

同じく人攫いの王に末満健一さん(この劇団の主宰)、攫われ王妃に三谷恭子さん(売込隊ビーム)。王妃を母にするために子供を攫う王様とその中から自分の子供を探す王妃です。よく考えると悲しいキャラクターですね。でも、ただ悲しいだけでなく、お母さんになるすごさや大切さを感じさせてくれます。何をどうしたからそう感じたというわけではなく、このお二人の役者さんとしてのオーラがそう感じさせるんだと思います。ちなみにお二人とも絵本から飛び出てきたようなコテコテの王様と王妃の格好をされていました。

つるのの子供の将来の一つ、殺人鬼は丹下真寿美さん(泰平堂)。この方は、観るたびにキャラクターが違う。かわいらしかったり、少年だったり、苦しむ青年だったり・・・。今回はちょっと違うけどHYT3の闇の猫のキャラクターと似ているかな。自分自身の葛藤に苦しむ少年。こんなこと素人が評価するのはおこがましいですが、ものすごくうまいです。シーンによっては完全にこの方の演技に見いってしまったところが幾つもありました。特に千秋楽で選ばれて犠牲になるところは、表情だけであらゆる感情を表現されて感動しました。

ぼーちゃんはSun!!さん(ミジンコターボ)。一人芝居、劇団の本公演ダメダメサーカスを観て、どんどんその魅力にはまってきている方です。何であんな声なんだろう。すごく優しく綺麗な声です。つるのをいつも見守ってきた優しい役、かつ空想世界の中のファンタジー的なキャラクターですので、その声がぴったり合います。高校時代の悲しむつるのを抱いてあげるシーンは、涙がこみ上げそうになりました。最後、旦那がつるのを守るために空想世界のキャラクターと対決する時に、かけた声が頭に残っています。

後一人、人数が合わないなと思っていたら、西分綾香さん。あらすじでは省略してしまったので、忘れていました。つるのの旦那の会社の後輩。最後の方で旦那を誘惑したりします。でも、結局、妊娠しているつるのを心配する旦那のことを理解してあきらめたみたい。女である自分より、これから母になる女としての自分を考えたのかな。あと、空想世界では子供の将来の中では一番まともな姿を演じられています。千秋楽ではずいぶんいじられて、いじめられっ子になっていました。この方の持ち味ですね。

これで多分全員。

最後に、ご本人は触れられたくないかもしれませんが、作・演の末満健一さんがカーテンコールの時に言葉に詰まり、涙を見せられました。
これまで、それほど公演を観たわけではないですが、こんなこと初めてだったのでびっくりしました。
お母様がご覧になっていたということなので、何か気持ちが高まったんでしょうかね。
ブログや作品を通じてしか、どんな方かを知ることはできませんが、私のイメージはとてもプロ意識の高い方。演劇を観せることをいつも真剣に考えて、常人では信じられない忙しさで日々過ごされていると思っています。
だから、舞台で役としてではなく涙を見せるのは不本意と感じられてるんだろうなと思っていましたが、先程ブログ(ツイッター)を拝見したら、本当にそんなことが書かれていました。
私も含め、客全員が思ってるでしょうが、あんなに素敵な涙はありません。
最高の作品を創り上げ、それに関わった方々のご苦労は想像に難くありませんが、その頑張りが末満さんの涙になっているのですから。
あの涙こそが、この作品の集大成。客としては最大の賛辞です。拍手するぐらいしかできませんが、ちょっとでも大きな音が出るようにしっかり叩きました。そんな素晴らしい場に入れたことに深く感謝します。

とっても素敵な作品、ありがとうございました。

次回は夏。戦国ボルテックス学園という相当面白い作品が観れそうです。

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コメント

スイッチ男爵がいいですね~♪

ストーリーを見た限り女性が脚本されてるんですかね??

素敵なファンタジーといった感じでしょうかヽ(´▽`)/

絶望のボーが希望のボーに変わってくれるとゆうあたり

SAISEIさん好みらしいですね★

これも興味のある作品の1つになりましたっ(。・w・。 )

投稿: mio | 2010年3月 9日 (火) 11時18分

>mioさん
読むの大変だったでしょう(*゚ー゚*)
名作に出会った時は、一応全役者のことを書くことにしているので。過去にも2回ぐらいありましたが。
脚本は末満健一さんです。まだお若いと言っても30代前半のある意味おっさんです。
何でこんな作品を作れるのかは、女性の役者さんも不思議に思っているようでした。
こういうすごいところが、この方は天才的な演劇人だと思うところで、毎回過剰なまでに期待してしまうわけです。
素敵な作品だったので、見せてあげたいけどね。多分、DVDになるのは2年以上先じゃないかな。

投稿: SAISEI | 2010年3月 9日 (火) 12時15分

魔呼斗→まことに変えればSAISEIさんが「まこっちゃん」と呼びやすいかと


流産された女性の複雑な気持ちですね ただ複雑な気持ちが自分にありまして先輩のお子さんが亡くなってから奥さんが浮気に走って しかも旦那と同じ会社の後輩に(俺と同期)


女性は強くもあり弱い人だと思います

投稿: まこと | 2010年3月13日 (土) 15時39分

>まことさん
改名するんですね。
パソコンで「まこと」と打てば、魔呼斗に変換されるようになってしまいましたが。
女ほどめでたきものはまたとなし、釈迦も達磨もひょひょいと産む。
男はかなわないですね。

投稿: SAISEI | 2010年3月13日 (土) 23時50分

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